最新のモダン占星術

 最新占星学、第一巻~第四巻。著者、潮島郁幸。

 これ、第一巻の初版は1955年らしい。四つの巻を一つにまとめた版が出版されたのは昭和38年(1963年)のようです。筆者がこの本を読んだのは1970年代のいずれかの版、多分1977年版です。最新占星学の出版によって、わが国の占星術は始まったと言えるでしょう。その功績は非常に大きい。日本にはそれまで占星術つまりホロスコープ占いなど、ほぼなかった。

 さてその「最新占星学」です。この本を読んで何を感じたのか?

 違和感、違和感そしてまた違和感。

 

 著者の潮島氏は、2世紀のプトレマイオス(氏の表記ではトレミー)と20世紀の占星術(最新の占星術)を対比する記述様式をときどき使います。この問題は、トレミー説では何々。最新の説ではこれこれ。こんな感じです。

 占星術の古典的完成者はプトレマイオスであるらしい。本当はドロセウスこそ最重要の古典であるべきです。しかし当時占星術界でドロセウスに注目していたものなど皆無です。

 以前、当ブログで述べたように学者のステグマンは1940年代にドロセウスの重要性を指摘していました。しかしこれは例外です。彼が慧眼すぎたのです。ドロセウスの一応の完全版が現代人の前に登場したのは、1976年です。世界の先端的占星術界がドロセウスの本当の重要性に気付いたのはダイクス博士登場以後です。つまり21世紀になってからです。

 そういう事情なので、プトレマイオスこそ占星術の古典だと当時はせざるを得なかった、これはokです。ない袖は振れないので。

 問題は20世紀の最新の占星術です。2世紀から20世紀まで一挙に1800年間跳ぶか!?

 この違和感が強烈過ぎて、本の中身がなかなか入ってきません。1800年間の歴史はどこへ消えた?。その間占星術は発達しなかったのか?

 ネケプソ&ペトリシス以来の占星術史約2000年間のうち、その最高の黄金時代は、8世紀末から9世紀前半です。西洋占星術と言ったところで、その直接的ルーツは、ウマー・アルタバリ、アブ・アリ、サール、アル・キンディ、アブ・マシャなどほぼ中世イスラム占星術です。西洋占星術への古典古代の直接的影響は無視できるほど小さい。なおマシャ・アラーはあえて挙げていません。マシャ・アラーの西洋占星術への主たる影響は間接的であって直接的ではないからです。

 しかし、そんなこと当時(←20世紀後半)調べようにも日本語環境では手も足も出ません。古典古代を専門とする学者ならある程度知っていたはずですが、大衆向けの占星術史を書く奇特な学者などいるはずもありません。占星術のような“迷信”に手を出すと学者生命にかかわる恐れがあります。

 

 筆者の違和感はさておき、この「最新占星学」の最大級のネタ元は、マーガレット・ホーンです。日本の御大的占星術師もマーガレット・ホーンから占星術の勉強を始めたことからわかるように、ホーンの The Modern Text-Book of Astrology 初版1951年? は当時、モダン占星術最高の教科書です。海外から洋書を取り寄せるのが結構な手間であった時代、そのエッセンスを日本語で読めたのは実に有難かったことでしょう。しかし時代は変わりました。ホーンは、モダン占星術の教科書としてもいささか古い。21世紀なら、洋書でモダン占星術を読むにしても、もっとすぐれた書籍はあります。

 例えば最初の一冊の入門書なら

 Astrology for today 2003年刊 Joanna Watters

 

 この著者の Watters さんは、わが国でも結構知られているマギー・ハイドさんとジオフリー・コーネリアスさんから占星術を学んだ人のようです。しかし心理占星術の本というわけではありません。実践的なモダン占星術の入門書です。

 すでに絶版なので中古でしか手に入らないことが難点です。モダン占星術の最初の一冊としては最良の部類です。モダン占星術の本を読んでも、これは役に立つと感じることはほとんどなく、何ぼけとんじゃと思うことが多いのですけれど、これは数少ない例外です。占星術のチャートというのは目的ではなくツールなのですから、モダン占星術の入門書の目的は、“ぼける”ことではなく、チャート読みに役立つ情報を提供することです。そいう点では、この入門書は合格ラインです。

 その第4章、significance & symbolism はプロでも?必読の内容です。significance & symbolism は上述のハイドさんとコーネリアスさんの用語だそうです。また第4章は、当ブログ認定モダン三巨匠の一人、その三人のなかでは当ブログ最もひいきのロブソン(Vivian Robson)の引用から始まります。このあたり、日本の入門書ではあり得ない、さすが本場の書籍です。

 

 邦訳本なら、「占星術完全ガイド」は、ホーンよりもずっと実践的です。本格的に勉強したいなら「クリスチャン・アストロロジー」があります。ネイタル占星術やるには、その第1書と第3書が必要です。読みにくいかもしれませんけれど、当ブログで何度も強調しているようにやさしい占星術はインチキくさい。本格的占星術を質を落とさずに簡単化することに成功した者はいません。

 

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