損傷と衰

 相当にわかりにくいキング牧師とは異なり、第7ハウス特にDSCが死の軸として機能することのわかりやすい誕生図の例がマルコムXです。そのチャートの正確さは AA です。

 また本稿では、デトリメント(損傷)とフォール(衰)について本邦初の考察を加えます。デトリメントとフォールをどう訳すか、定番の訳語はまだないようですけれど、ここでは損傷と衰ということにします。

 デトリメントとフォール、点数的にはデトリメントがー5点で、フォールがー4点ですけれど、誕生図の場合、厄介なのはフォールの方です。チャートによっては犯罪的な傾向として出たりします。

 なおデトリメントなる本質的品位が、正味な話し、存在するのか疑問がありますけれど、実際古代には恐らくそんなものはなかったわけですけれど、ここでは存在するものと仮定して話しを進めます。自らが支配するサインの反対側、すなわちオポジションに位置することは有利なことはほぼないからです。つまりこの卦はデトリメンタルに機能することは確かです。オポは敵対のアスペクトだからです。だかこそ、第1ハウスの反対側の第7ハウスは死のハウスになり得ます。

 

 おうしサインのn火星はいわゆるデトリメントです。

 おうしサインのn火星の大物の有名人にはモハメド・アリがいます。Rodden rating AA。

 

 モハメド・アリの第9ハウスはおひつじサインです。そのルーラの火星はおうし3度第10ハウスにあります。火星(軍神)は、第9ハウスが示す事柄を表現するための手段だと言えます。

 マルコムXの第9ハウスはおとめサインです。第9ハウスが示す事柄を表現するための手段が水星(スピーチ)です。その水星はおうしサイン3度第5ハウスにあります。第5ハウスは大使のハウスです。

 マグマ大使を連想するとわかりやすいでしょう。マグマ大使はアース様に遣わされています。マルコムXも遣わされた存在なのでしょう。

 

 さて、マルコムXもアリも7天体のディグニティには恵まれていません。ドミサイルもイグザルテイション(高揚)もありません。古代や中世なら成功するには有利とは言えません。しかし現代は複雑怪奇な社会です。品位が高くない誕生図持ちは、正当派、主流派のいきかたは向きませんけれど、異端児的な才能を発揮する、あるいは過激な言動をするには、品位がよくないのはむしろ有利です。

 

 モハメド・アリの火星おうし3度 合 マルコムXの水星おうし3度

 

 この二人の友情と断絶は映画で描かれるくらい有名です。友情の方は、占星術的には一応説明がつくとして断絶の方はどう説明しましょう?

 

 マルコムXの火星はかにサインです。すなわちフォールです。火星は1度以内でDSCと合です。1965年39歳のとき、マルコムXは凶弾(←火星)に倒れました、フォールされてしまいました。ご想像の通り、マルコムX39歳のときの年度代表星は火星です。DSCはまさに死の軸!

 これはあまりにも分かりやすい例であり、そうそう単純にチャートが読めるわけではありません。

 

 モハメド・アリの第12ハウスはかにサインです。まだ20代前半だったアリにしてみればマルコムXは裏切り者です。自分のチャートの第12ハウスにマルコムXの火星が入ります。アリが23歳のときマルコムXは暗殺されてしまいました。その後アリは、マルコムXとの断絶を一生?後悔するようになったようですが。

 

 恐らくはMCルーラでもあったマルコムXの火星かにフォールは確かに凶兆です。マルコムXが倒れたのは、占星術的には“ボス”(←MC)の仕業です。

 ではアリのデトリメントの火星は?

 デトリメントだからといって、その天体が象徴する分野で成功しないわけではありません。ただトラブルが起きたときにそれを収拾にするにはやはり不利なようです。アリの場合、政府や社会(ともに第10ハウスマター)との闘争をデトリメントの火星が象徴しているようです。もっともだからこそアリは政治的な文脈においても20世紀の大物になったのですが。

 ホラリーのように切羽詰まった状況において立てるべきチャートにあっては、デトリメントは不利です。誕生図は一生ものなので、持っているものをどう開発していくかが重要となります。

 

 アリは74歳で死去しました。年度代表星は金星です。t金星ですら重要イヴェントに効く可能性が高い。アリの場合、病死ですから、第8ハウス関連の死が象徴されます。DSCが強く絡むと畳の上で死ぬのは難しくなります。

 

 アリの第8ハウスうお ← n木星Rふたご11度

 

 アリ死去時のトランジット

 tテイルうお17度 ← 誕生図の第8ハウスに入る

 t木星おとめ14度

 t土星Rいて13度

 t太陽ふたご13度

 t金星ふたご12度

 

 いわゆるTスクエアが形成されていました。伝統的な考えでは、普段はあてにならないトランジットといえども3度以内で集中すると危険です。

 なおt海王星はうお12度で恐らく効いていたのでしょう。しかし土星までで約束されていたからです。わざわざ持ち出す必要はありません。

 

 アリはn金星 合 nDSCみずがめ持ちですが、これで事件や事故で死ぬと予想するのは無理があります。n金星は最良天体であり、デトリメントでもフォールでもないからです。またアリ本人を象徴するASCルーラn太陽やぎとn金星はアヴァージョンです。事故死や事件死の可能性はほぼないと言えます。しかしながらDSCと合であった金星が死を全くしめさないわけではありません。年度代表星であったt金星はt太陽にコンバストされて燃え尽きました。

 

end