不惑

 吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑はず。

 

 占星術、astro-logy 限らず一般に〇〇-logy(学)の道は厳しい。孔子ですら独立するまでに15年、不惑に達するまで25年かかるということのようです。火星のレッサーイアー(lesser year)が15年、月のそれが25年ですから、よくできたアフォリズムと言えましょう。

 ちなみに土星(のような長期間)好きの当店では、「にわか」というのは概ね19年以下を意味します。グレイトコンジャンクション一回分の20年を経過すれば、一応「にわか」卒業です。ただし天才的な人はまた別です。

 

 ホラリー占星術の千年に一人の天才、ウィリアム・リリーは1602年生まれ、クリスチャンアストロロジー(CA)の出版が1647年、その没年は1681年です。リリーは、英語で占星術書を書いた最初の人であるようです。この真偽は定かではありませんけれど、本格的占星術書を英語でということになると、リリーが業界初であることは間違いありません。

 リリーの時代は日本ではどんな時代だったかというと、こんな感じの時代です。江戸幕府第三代将軍徳川家光の生年が1604年、徳川家康の没年が1616年松尾芭蕉の生年が1644年です。その芭蕉が「古池や蛙跳びこむ水の音」と詠んだのがリリー没後の5年後です。リリーは芭蕉より一世代(土星のレッサーイアーが30年)前の人と言えるかもしれません。

 

 モダン占星術に決定的な影響を与えたのがリリーです。英語版のwikipediaでは正当にそういう趣旨が記述されています。20世紀モダン占星術の創作者たちはほぼ英国人で、またほぼラテン語が得意ではなかったので、17世紀の英国特にリリーを元ネタとせざるを得ませんでした。だったらCAを基本テキストにすれば良さそうなものですけれど、そうはしませんでした。そうはできませんでしたというべきか。CAでは大衆はついて来れません。プロにとってもCAは敷居が高い。CAを買って読もうなどと言う殊勝なプロはあまりいませんでした。売れないものは市場や市中から姿を消していきます。だからこそバークレイさんは大英博物館にCAの“正典”を探しに行かなければならなかったわけです。“本当のモダン?”の再発見、バークレイさんの貢献と功績は永遠です。これからもモダン派は恐らく永続するからです。

 

 さて、そのリリーが占星術の研究を始めたのは1632年です。CAの出版は1647年ですから、驚くべき才能、天才性です。普通のプロなら30年かけてもCAレベルの本は書けないでしょう。しかし、この世界、ときに稀有な才能が出現します。たとえばクリス・ブレナン。

 リリー以来の逸材?、クリス・ブレナンは1984年11月1日生まれです。ブレナンがケプラーカレッジでの占星術の学習を始めたのが2003年です。ブレナンの著書、「Hellenistic astrology」の出版が2017年です。まさにリリー並みの才能です。

 ブレナンは、占星術師には珍しく非常に活動的です。YouTubeでも恐らく業界一的に活動していますけれど、よくそんな時間があるなと感嘆します。彼の誕生図をみると、昼チャートであり、月以外の伝統的6天体、月以外のモダンの9天体全て地平線上にあります。その月も第1ハウスでいわゆるアドヴァンシングであり、どこをどうとっても実行力のかたまりです。

 

 その誕生図の第9ハウスはてんびんサインです。出生前新月はさそり1度で、そのASCはてんびん、第9ハウスはふたごです。出生前新月のASCルーラ金星はいて5度です。

 新月図の金星 合 誕生図のMCいて5度

 新月図の水星さそり10度14分 合 誕生図の太陽さそり9度36分

 

 誕生図のヘッドの平均値はおうしの28度です。その真値はおうし27度です。モダン占星術の立場では27度は占星術の度数です。

 この新月図と誕生図をみても、この人物が何者か、多分わからないのでしょう。それを当てる占い師もいるはずですが、ギャンブルは当たるときもあります。しかし占星術師のチャートだとすると、リリー以来の逸材になっても不思議ではないチャートです。リリーの誕生図の第5ハウスはかにサインです。その月はブレナンの誕生図では第1ハウスに入っているのは実に象徴的です。それにブレナンの出生前新月図のMC(←召命)はかにサインです。どうしたってリリー以来の逸材になってしまいます。

 

 占星術にはドラコニックなるテクニックがあります。誕生図のヘッドの位置をおひつじ0度にしてチャートを描写しなおすテクニックです。たとえば誕生図のヘッドの位置がおうし27度なら57度を減算すると、おひつじの0度にヘッドが来ます。この減算作業を全ての天体とアングルなどに対して行います。Astro-seek ではドラコニックチャートが用意されていますから手計算や電卓などでの計算は不要です。

 ところで、おとめサインの11度は伝統的に占星術の度数だとされています。クリス・ブレナンのドラコニックチャートの太陽はおとめ11度です。その第9ハウス(出版)はししサインで、そのルーラの太陽おとめ11度は当然第10ハウス(評判、召命)に入ります。

 

 占星術において、ヘッドの真値、平均値のどっちを使うかはモダン伝統を問わず占星術業界で統一した見解はありません。当店は原則的に真値派です。しかしながらドラコニックチャートのような計算上出てくるチャートについてはどっちを使ってもokだと考えています。むしろ、どちらかというと平均値のほうが良さそうに思えます。平均値というのは計算上の動きなので。

 

end