前回の記事の最後の行で「技術が継承されるべき」と書きました。今日は占星術的に興味深いその一例について記述します。
アブマシャア、Abu Ma’shar、アブー・マーシャルの誕生図なるものが公開されています。ASCはおうしサインの2度だとされています。しかしながらアブマシャアの弟子によると、師匠は自身の誕生時刻を知らなかった、とのことです。ゆえにここでは彼の誕生図のアングルは算出しないものとします。
アブマシャアの生年月日は、一般に採用されているユリウス暦787年8月10日とします。この生年月日で計算すると7天体及びヘッドの位置は次のようになります。
月おうし、火星しし13～14度、太陽しし19～20度、水星Rしし28度～29度、ヘッドおとめ22度、金星てんびん5～6度、木星Rみずがめ24度、土星Rうお0度。
月は高揚、太陽と金星はドミサイル、木星と土星はドミサイルのミュウチャルディスポジション、モダン占星術で言うところのミュウチャルリセプションです。98歳まで生きた人なので、ライツは強力です。なお金星と土星は高揚のミュウチャルディスポジションです。高揚、イグザルテイションがあるのは栄誉なことです。実際、占星術師たちのプリンスとまで称えられていました。
一方で、逆行天体が3個あります。やり直しの人生です。
アブマシャアは占星術（水星）に反対（水星R）するスタンスを取っていたのですけれど、占星術師でもあった哲学者アルキンディに諭されて４０代で擁護派に転向したというのは業界ではよく知られた話です。アブマシャアの誕生図の逆行水星は太陽に接近していきますから、太陽（authority）がアルキンディを象徴しているのかもしれません。太陽がししサインであっても天体はコンバストされます。アブマシャアは燃え尽きたものの生き返りました。アルキンディとの論争に敗れ転向したとの説もあります。良い方に転向したことをもってコンバストされないというならそうかもしれません。しかしコンバストがあると一種の終了状態は避けられません。
コンバストに限りませんけれど占星術の法則に完全な打消しはありません。ある程度の緩和効果は期待できますけれど、一般に吉凶は混合するのであって打消しはしません。もっとも激辛の料理に蜂蜜を大量に投入して混ぜれば、もはや辛みは全く感じなくなるかもしれません。隠し味的な効果は残るとは思いますが。しかしながら、それほどの大量の蜂蜜（吉相）を持つチャートというのは滅多にありません。当方が見たことがある唯一の大量の蜂蜜（吉相）を持つチャートというのは、ことホラリー占星術にかけては、空前絶後2000年に一人クラスの占星術師リリーの誕生図だけです。
誕生図（←ある時点でのトランジット図）は時空を超えて“遺伝”します。チャートのパターンや特徴はその“遺伝”要素の一つです。リリーの誕生図の水星R、木星R＆土星Rは逆行しています。この点、アブマシャアと全く同じです。また両者とも金星はドミサイルのディグニティを得ています。
左側がアブマシャア、右側がリリー。
太陽しし１９～２０□ 太陽おうし１９ アブマシャアは業界の父親的存在
太陽 □ 金星おうし１９
太陽 △ MCいて１９
月おうし △ 月やぎ１４ 一般に月は占い師に最重要の天体
土星Rうお０ 合 ASCうお２
火星しし１３～１４△ 木星Rてんびん１３
アブマシャアの木星Rは伝統派の牙城やぎサインにいます。彼が生まれた時には木星はそこを逆行して運行していました、トランジットしていました。リリーが生まれたとき、木星はてんびんサインの13度を逆行して運行していました。リリーの第1ハウスはうおサインで、そこに天体はありませんからこの木星Rはリリー自身をよく象徴します。だだしリリーのASCの度数の勝利星（victor、アルムーテン）は金星です。リリーの金星はアブマシャアの太陽とタイトなスクエアです。これが占星術的“遺伝”の面白いところです。なにがどうしてどうなっても不思議に“遺伝”してしまいます。
アブマシャアの太陽とリリーの太陽はほぼ1度差の□なのでリリーは伝統的占星術師であった同時にモダン占星術の太祖でもあります。不思議なことにあるいは正統なモダン占星術的には当然のごとく、アブマシャアの天王星はしし21度です。つまり
アブマシャの 太陽 合 天王星しし □ リリーの 太陽 合 金星おうし
さらに不思議なことに、正統占星術的には当然のごとく、リリーの天王星はおうし10度です。アブマシャの月はおうしサインですから相応に関係があります。運命的なのは次の卦です。
アブマシャアの太陽 アンティション リリーの天王星
アンティションですからこれは運命です。逆らえません。この天命に従い、リリーはモダン占星術の太祖となりました。
end
