special chemistry

 フレッド・アステアジンジャー・ロジャース。フレッド&ジンジャー。

 映画史上最高のダンスのコンビです。世紀のエンタテイナーであったアステアにとってもロジャースはダンスに特別の“きらめき”を与える唯一のダンスパートナーでした。ロジャースは訓練されたプロのダンサーではなかったので、これはミュージカル映画界隈ではトップクラスの謎の一つです。

 ロジャースには、プロのこだわりがなかったので、“アステアワールド”を現出させるのに困難が少なかったのかしれません。ロジャースはパートナーであるとともにアステアの最高の生徒でもあったのでしょう。というのはアステアのスタイルは非常にユニークでアステア(ワールド)に寄せられるプロのダンサーはほとんどいなかったのです。

 

アステアの誕生図

 

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ロジャースの誕生図

 

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 このコンビのダンスには、 have a special chemistry 、特別な化学がある、と評されることがありました。chemistry には相性の意味もあるようです。しかしながらここは化学反応(のごとき不思議な状態)とでも解釈すべきでしょうか。すなわち魔術的な魅力。

 

 ロジャースの誕生図はなかなかの難問のチャートです。ASCルーラの水星はししサインで第3ハウス、物書き?。金星はフォールで第4ハウス。女優のチャートには見えません。もっともロジャースの母親はハリウッド史上有名なステージママです。第4ハウスの金星は、それを示唆しているのかもしれません。さらにMCはみずがめサインで、土星はおうし第12ハウスです。アステアとコンビを組んだことがきっかけで伝説的なスターとして名を残したのでしょう。

 ロジャースのMCサインはみずがめで、そのルーラ土星おうし18度は第12ハウスです。通常なら伝説的なスターにはなれそうもありません。アステアの出生前新月はおうし18度です。二人の初共演映画が公開されたのは、1933年ロジャースが22歳のときです。吉意の強い第11ハウスおひつじサインの年です。年度代表星の火星はおうしです。彼女の誕生図では火星おうしと金星おとめはサイン的に△の関係です。この年のパートナーのサイン=ハウスはてんびんです。てんびんの高揚ルーラは土星(厳格な教師)であり上述したようにおうし18度にあります。栄転を示唆しています。

 

 さてアステアの出生前新月はおうしサインの18度で起きました。おうしのルーラないし lord は金星です。アステアの金星はおひつじサインにいます。いわゆるデトリメントとはいえ最良天体であり第5ハウスの大使のハウスにいます。第5ハウスを支配する火星は第9ハウス太陽神のハウスにいますから、アステアは天から遣わされたほどのポテンシャルの持ち主です。

 

 21世紀に生きているわれわれにとってはピンとこないかもしれません。しかしアステア&ロジャースのコンビは、前代未聞のダンスのスーパースターコンビでした。また30年代半ばのアステアは紛れもなく世界一のダンサーでした。ときはまさに大恐慌、大不況の時代。30年代の不況は、前代未聞、空前絶後の大不況でした。不況のときには天国気分を味わうことができる映画がはやるのかもしれません。

 フレッド・アステアが heaven, I’m in heaven ~ と歌ったのは、映画「トップハット」、1935年公開の cheek to cheek においてでした。映画トップハット特に cheek to cheek のダンスナンバーは、アステア&ロジャースの共演映画10本のなかでも随一の古典的映画であり古典的シークエンスです。優美さの極み、最も天国気分を味わえる映画です。そのダンスシーンは映画「グリーンマイル」(1999公開)で引用されています。これぞ天国だ!、なら筆頭に挙がる映画なのでしょう。

 照明、衣装&振付など、総合的な優美さでは映画「トップハット」のcheek to cheek に一歩譲るものの、アステア&ロジャースのダンスナンバーにおいて、技術的な完成度、音楽性の高さでトップクラスなのが映画「ロバータ」の smoke gets in your eyes です。フレッド・アステアは完全主義者とよく評されますけれど、このダンスパフォーマンスどこをどうとっても完璧です。

 

映画ロバータのダンスナンバー、煙が目にしみる

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リンク先

Smoke Gets In Your Eyes – Fred Astaire and Ginger Rogers in Roberta 1935 - YouTube

 

 このシークエンス、アステアがオーケストラを指揮しているところから始まります。カメラが左に振られるとロジャースが歩いてきてアステアのもとに。アステアが歌い出し、それを引き継いでロジャースが歌い、それを受けてアステアのみが再び歌いだすと同時に二人は歩き出します。アステが歌い終わると同時にカメラが切り替わり、二人は階段を降り始めます。ここからダンスが終わるまでカメラが切り替わることはありません。ダンサー(達)を一つのカメラが追い続ける手法というのは実質アステアの発明であり、当時は革命的なことでした。

 画面に向かって左側の階段を下ることで始まったダンスは画面に向かって右側の階段を上り二人がステージから退場することで終わります。大道具や小道具を利用することに長けているのが一つのアステアスタイルです。階段を上りながらのダンスは「有頂天時代(swing time), 1936」の never gonna dance でも二人は試みています。あれはやや階段の段数が多すぎです。体力的には驚嘆すべきパファーマンスでした。振付師のハーミズ・パンは「ジンジャーは英雄みたいだった」と回想しています。しかしやや冗長な感じがします。別れのダンスなので状況的にタップ音も入っていません。当方個人的な感想としては「ロバータ」のほうが好ましい。

 

 さて smoke gets in your eyes のダンスの途中10秒間ほどタップ音が入ります。かかと落とし、ヒールドロップによるタップ音が実に効果的です。タップダンスではないダンス中にタップ音を入れるのが一つのアステアのスタイルです。ヒールドロップを多用するのはリズムタップの父ジョン・バブルスの影響です。真偽のほどは定かではありませんけれどヒールドロップはバブルスの発明だとされています。バブルスはアステアに影響を与えた数少ないダンサーの一人です。天才といえども無から有は創造できません。技術が継承されるべきなのはタップダンスも占星術も同様です。

 

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