フェイシングのしょっぱい思い出

☆伝統的占星術の本邦初の基本書?
 日本語の基本書はありませんでした。クリスチャンアストロロジーⅠ(CAⅠ)は基本書 ですけれどリリーはモダン占星術の祖なのでやや特殊です。
 伝統的占星術の日本語の入門書や参考書なら下記二冊があります。二冊ともコストパフォーマンスがよくないのが泣き所。

 当ブログを読むのにあると便利な伝統的占星術の日本語本

 ダイクス博士の「現代占星術家のための伝統占星術入門」
 伝統的占星術の用語を日本語で修得したいなら必携です。入門(方向づけ、針路を示す)には最適ですけれど、やや物足らない。中級を目指すなら後述するITAのほうが適しています。このレベルで難しいと感じるなら占星術に向いていないのかもしれません。ただ書籍と読者の間に相性はあります。
 占星術の哲学的背景に興味があるなら、英語でも、この本以外に選択肢がありません。伝統的占星術のコンセプト(運命感)は特にストア派ネオプラトニズムの影響が大きい。

 Kuni.Kawachi氏の「星の階梯Ⅰ」
 近日Ⅱが出るようなので、ある程度知識がある方ならこちらのほうがおすすめ。羅列的な本で参考書ですけれど、ダイクス博士の英語本「introductions to traditional astrology」略してITAほど羅列的ではありません。
 なお英語が苦手でもITAは読めます。載っている123個の図(figure)だけでもITAを買う価値はあります。伝統的占星術はそんなに甘くないということを思い知るという効用もあります。これでやる気が出るなら占星術に向いています。

 両者とも基本書ではなくチャートの読み方は書いてありません。チャートの読み方はコースやゼミナールの講師の飯のタネなので書いてないのは当然です。

 どんな学問でも応用力を身につけるのに必要なのはいわゆる基本書です。たとえば経済学なら一昔前まではサムエルソンの「economics」。ケインズ経済学に限れば今でも基本書の定番なのかも。モダン占星術ならマーガレット・ホーンの「the modern text-book of astrology」。ホーンの影響は大きかった。日本では業界トップと目されている占星術師が最初に読んだ英語の本がホーンらしい。別のある高名な先生の著書は、「マーガレット・ホーンの直訳である」とまで業界中で評されたほど。ちなみに当ブログではモダン占星術であってもホーンは推していません。当ブログが推す20世紀モダンは、モダンの巨匠”御三家”、Sepharial, Carter & Robsonです。それはさておき、
 本日4月5日?に「伝統的占星術」の基本書(?)が発売されるようです。日本初の快挙でしょう。ページ数からすると本格的な基本書のように思えます。どんなテクニックが解説されているのか、まことに楽しみです。テクニックの多彩さが伝統的占星術の一つのウリです。テクニックが多すぎて手に負えません。一つの料理にすべての調味料を投入するわけにはいきません。どういう料理ならどの調味料を適宜投入していくか、基本書なくして修得は困難です。

☆ボナッティ(Bonatti)が物凄くこだわっているfacing
 予定を変更してフェイシングの淡い思い出を語ります。
 フェイシング(faces or facing)または proper face。これは正統占星術の中級のテクニックです。もちろん本邦初公開のテクニックです。多分世界的にも珍しいテクニックです。テクニックとして公開するのは世界初かもしれません。
 ここで言うフェイシングはディグニティのことではありません。コンフィギュレイションズの一つです。なお代表的かつ最重要なコンフィギュレイションはアスペクツです。フェイシングもアスペクトの一種だと言えるかもしれません。なお当ブログではコンフィギュレイションのことを卦とも言うことにします。
 シャーリー・テンプルのチャートでは、第7ハウスのセクトライトの月に対して金星(第5ハウス)と火星(第4ハウス)がフェイシングです。金星はアングルのハウスでもアングルのルーラでもありません。しかしロットオブフォーチュンがてんびんなのでそのルーラです。セクトメイツの3天体がフェイシングですから品行方正ぶりを象徴します。少なくとも表の顔(第5ハウス)的には。ボナッティがフェイシングにこだわるのも尤もなことなのでしょう。
 フェイシングの元祖はプトレマイオスです。テトラビブロス、Book 1の26章、faces, chariots, and similar attributes of the planets、Ashmand訳。山本啓二教授は、facesを“顔”と訳しています。確かにfaceは顔という意味です。しかしfacesを顔と訳したのではなんのことだかわかりません。当方の語彙力では適切な用語をあてがうのは困難です。顔役とか顔向けとでも訳すべきかもしれません。
 ところがフェイシングについてのプトレマイオスの記述はそれほど明確ではありません。ボナッティはプトレマイオスに言及しながらプトレマイオスの説明とは相当異なることを述べています。しかもプトレマイオス以上に混乱した記述をしています。ネタ元が混乱気味だから仕方ありません。ボナッティの説明は混乱気味ではなく混乱しています。何度読んでも当方のアタマに内容が入ってこない。
 そこで webの力を借りようとfacingを検索してみました。もう10年ぐらい前のことです。ところがfacingを解説している記事は当時見つかりませんでした。プトレマイオス起源の古典中の古典的テクニックを少なくとも英語では誰も問題にしていないとは、まことに遺憾、イカンです。正統的な占星術は、自分で構築するしかないとしょっぱくも悟りました。
 フェイシングについてのプトレマイオスの記述もボナッティの記述も混乱しているので、当ブログでは al-Qabisi の記述を正統なものとして採用しています。中世欧州の占星術では、al-Qabisi は有力な基本書の一つでした。彼は数学者でもあったので理路整然と説明する能力に長けていたからでしょう。フェイシングのように説明しにくいテクニックも混乱なく記述しています。なおフェイシングについてのal-Qabisiの記述は上記のITAにはちゃんと載っています。

 

 ITA。

Introductions to Traditional Astrology

Introductions to Traditional Astrology

 

 

 欧州の占星術に大きな影響を与えた al-Qabisi を読めるので貴重です。

 英語本とはいえ、モダンであれ、非モダンであれ、占星術をやる以上やはり必読でしょう。モダンから伝統派への転向おすすめ本的な趣向の本です。図表が多いので英語が得意でなくとも使えます。もちろん、webの辞書で単語を調べられないというのであれば使えません。

 

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