伝統的占星術の源流域

 伝統的占星術の源流域。このワードで検索すると当ブログがトップにくるようです。検索日、2021年8月7日。

 

 当ブログで何度も記述しているように、ホロスコピック占星術の伝説的発明者はヘルメスです。世界創造チャート、テーマムンディはヘルメスが発明したことになっています。実際どうだかわかりませんが。なおホロスコピック占星術はモダン占星術を含みます。

 ヘルメスがテーマムンディを”発明”したことにより伝統的占星術が事実上始まりました。当ブログで以前指摘したようにヘルメス起源とされる情報を最も多く含んでいるのが9世紀のアブマシャァの大序説(the great introduction ~)です。

 しかしながら、古代の伝統的占星術の最大級の源流域は、ヘルメスよりもむしろネケプソ&ペトシリスです。おそらく紀元前100年ごろにネケプソ&ペトシリスによって伝統的占星術の基本となるテクニックは概ね完成したものと推定できます。彼らの著作は残っていません。

 ネケプソ&ペトシリス起源とされる情報を多く含んでいる三大ソースがドロセウス(AD100年ごろ?) 、ヴァレンス(2世紀)&ファーミカス(Julius Firmicus Maternus4世紀前半)です。

 占星術師ではなかった2世紀のプトレマイオスはどうでしょうか。これは一つの謎です。プトレマイオスの元ネタは、おそらくアレクサンドリアに在った図書館です。アレクサンドリア図書館は焼失してしまったのでプトレマイオスの元ネタも亡くなってしまいました。プトレマイオスの後世への影響力は絶大でした。しかし2世紀の当時は結構異端的で、いわば当時のモダン占星術でした。プトレマイオスが古代の占星術業界で注目されるようになったのはポルピュリオス(3世紀末)がテトラビブロスの入門書を書いたからです。以後、異端的だったプトレマイオスは正統派に転化しました。プトレマイオスの価値は21世紀の現在でも謎です。プトレマイオスはマンデン占星術の事実上の開祖です。マンデン以外の分野の彼の業績は無視しても ok なのかもしれません。正統占星術的には異端的すぎます。一方で、ドロセウス 、ヴァレンス&ファーミカスが書き漏らした古代起源(バビロニア起源)?の古い情報をプトレマイオスは含んでいるのかもしれません。ゆえに完全無視もできず、どうも困りものです。困りついでにもう一つ困っておくと、当然のことながらリリーはプトレマイオス派です。ドロセウス派ではありません。

 ドロセウスこそ占星術です。

 リリーがモダン臭い理由の一つがプトレマイオス派だからです。さすがのリリーもプトレマイオスの権威には屈する他なかったようです。

 ちなみに、リリーですら屈した(実は異端的な?)プトレマイオスの権威で業界が一色だった時代にドロセウスこそ占星術であることに最初に気づいたのは、20世紀前半のドイツ人の学者、ヴィクトル・ステグマンです。なんたる慧眼!、しかし占星術業界はステグマンの業績を無視し続けてきました。ステグマンの先駆的な業績に21世紀になってスポットライト当てたのはダイクス博士です。マシャアラーとサールを英訳したのがダイクス博士で、その過程で、ダイクス博士は、ステグマンの指摘があまりにも正しい、正しすぎることに気づいたというわけです。

 つまり、ドロセウスこそがホロスコピック占星術の最大級のリソースである、これです。さらにドロセウスのリソースはネケプソ&ペトシリスである。

 

 以上まとめると、ホロスコピック占星術の四大ソースは以下の4人です。

 ドロセウス  最重要のリソース、ホラリーの”大ネタ元”。

 プトレマイオス  マンデンの開祖。アリストテレス哲学的占星術の開祖。

 ヴァレンス  天体の意味を詳述、予測技術の宝庫。ネケプソ&ペトシリス起源の情報を含むという点でその価値はネイタルではドロセウス以上かも。

 ファーミカス  アマチュア的ながらページ数が多いので特ダネ多数。

 

 実はここに第5の男、アテネのアンティオコスが。しかしこれについては別の機会に記述したいと思います。

 

 ヴァレンスは天体の意味を詳述しました。これのどこが珍しいのか不思議に思う方もいるかもしれません。古代の占星術書で、各天体の意味を詳述しているのは、ほぼヴァレンスだけです。中世イスラムの時代まで、天体の象意は読者(というより著者である師匠の弟子たち)は知っている前提で記述されています。

 

 ファーミカスはラテン語。中世ではいわば禁書でした。12世紀以前の中世ラテン欧州の知識人たちはファーミカスを読めたはずです。しかしファーミカス(の写本)を持っていることがバレたらスキャンダルになります。また中世ラテン欧州は数理計算ができなかった、つまりホロスコピック占星術に憧れる者は一定数いたのだけれどチャートの計算ができない、チャートを作れないので占星術をやりたくてもできません。中世欧州が占星術ができるようになったのは、数学者でもあったアルカビシの著書をアラビア語からラテン語に翻訳してからです、多分。

 

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