ヴィクトル・ステグマン

 例によってここ日本ではステグマンの業績に誰も言及しないので、当ブログで述べることにします。

 ヴィクトル・ステグマン(Viktor Stegemann)。シュテゲマン?。古典文献学者、コプト学者、宗教学者

 1902年1月17日生まれ、1948年3月2日、46歳で没。死因はわかりませんでした。既婚者であったようです。

 ギリシア語、ラテン語コプト語などの教師です。

 本職は、古代の宗教史、コプト語コプト(語)魔術(文書)の研究ということらしい。

 彼の業績で多分一番重要なのがシドンのドロセウス(Dorotheus of Sidon)の断片の収集と研究でしょう。西洋占星術というのはアラビア起源、特にサールをソースとする技芸だと思われていました。実際そうなので、これ自体はその通りです。中世欧州のほとんどの街の図書館にはサールの本があったとのこと。しかしサールの主リソースは、実はギリシア系のドロセウスであるぞ、占星術というのは欧州起源であるぞ。ステグマンのこの主張にはナチスの影響があったものと思われます。占星術をヨーロッパに取り戻したかったのでしょう。

 ただ欧州の占星術の直接的起源は中世イスラムであることは動きません。欧州には、ステグマンが集めたようなドロセウスの断片しかなかった。まとまった一つの文献としてドロセウスが現代人の前に現れたのは1976年です。

 ドロセウスの原典はギリシア語です。サーサーン朝時代に中世ペルシア語に翻訳されたようです。ウマーアルタバリは、800年ごろ、これをアラビア語に翻訳しました。今日、我々がドロセウス にアクセスできるのは、ウマーアルタバリのおかげです。ありがたやー。

 ドロセウスの原典から約700年後に翻訳されたウマーアルタバリ版のドロセウスは、いろいろ問題がある版なので取り扱い注意です。しかしそれでも最良のドロセウスである、これが業界の定番の評価です。

 1976年にドロセウスを初英訳したのはピングリーです。その業績は非常に大きい。しかしピングリーは占星術師ではないし、それに誤訳もあるらしい。占星術業界がドロセウスに気軽にアクセスできるようになったのは、ダイクス博士がウマーアルタバリ版のドロセウスを英訳したからです。Carmen Astrologicum: The 'Umar al-Tabari Translation, 2019年。

 モダン派であれ伝統派であれ、ドロセウスは占星術の最重要資源です。このドロセウスが実占で使えるようなかたちで占星術業界に登場したのは2019年です。

 ダイクス博士によるこの翻訳がなければ当然このブログも誕生しません。ドロセウスこそ占星術で、ドロセウス抜きの正統占星術などあり得ません。

 遅蒔きながらやっと”本当の占星術”が始まりました。すると今までの占星術は何だったんでしょう?、冗談ですまないところが恐ろしい、この世はやはり魔界です。天体がアセンダントから地上に昇ってくると(←この世、この地上)、すぐに魔界の第12ハウスのゾーンに入ります。

 

 

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