伝統的占星術

占星術文明

 伝統的占星術保守本流は帝国の占星術です。そういう側面があります。現在なら米国(系)占星術、”アメリカ帝国”の占星術です。現代の英国の伝統派は、モダンの祖のリリー派が主流なので言わば傍流であり、本流的な観点からは問題があります。本格的な伝統的占星術は英国にはほとんどありません。英国系のネタ元の大部分はCAです。なのでどうしてもモダンぽくなります。以前指摘したように、世界史上ダントツのトップ占星術史家であったホールデンによると15世紀半ばからアーリーモダンの時代です。中世末期(The Late Middle Ages)ではないことに留意です。そしてケプラー以後モダン化は急速に進みリリー以降はもうほとんどモダンです。だからこそ21世紀には17世紀英国の占星術は一定の価値があります。完璧的に中世に戻ることは現代人には恐らく無理です。現代の文明国では”魔女”(占星術的にはデトリメンタルな品位)にこそユニークな価値があるのでしょう。

 

☆サーサーン朝とアッバース朝

 ホロスコピック占星術の歴史上、大きな役割を果たした大帝国といえば、アレクサンドロスの帝国(特にプトレマイオス朝)、古代ローマアッバース朝The Abbasid Caliphate)です。古代ローマアッバース朝を繋いだのがサーサーン朝ペルシアでした。いわゆるモダン占星術が誕生したのが大英帝国大英帝国はインドを支配していましたから、モダンはインド占星術の影響を受けています。ごく初歩的なレベルでの影響ですが。

 ”インド詣で”は近代神秘主義の一つの通過儀礼みたいなものでした。例、最大級の大物ブラヴァツキー夫人、A・クロウリーなど。モダン占星術の父アレン・レオもインドに行っています。手相や数秘術で有名なキロ(Cheiro)ももちろんのことです。キロの数秘術南インド式だとされています。キロは占星術師でもありました。英国王エドワードの引退の予言的中は有名です。

 

 アッバース朝は後のヨーロッパ文明の母胎となった帝国ですから歴史的に重要です。ヨーロッパ文明の大恩人的帝国がアッバース朝です。その時点での人類史上最高に高度な文明を築いたのがアッバース朝でした。アッバース朝から文明を輸入したヨーロッパがその後世界を制覇しました。

 日本に正統占星術が存在しなかった一つの証拠が、サーサーン朝やアッバース朝に対する無関心さです。学問の世界ですらそうだったのですからいわんや占星術においておや、です。

 amzon.co.jp 、本のカテゴリでサーサーン朝で検索しても、本のタイトルにこの言葉が入っている書籍は1冊しかありません。「古代メソポタミア全史 シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで」、4000年の興亡史。サーサーン朝に関する記述はおまけみたいなものです。この本以外にはせいぜい「ペルシア帝国」という本があるぐらいです。サーサーン朝がいかに重要か、しつこく言い出したのは、どうやら当ブログが日本初のようです。当店は日本唯一の正統占星術どころですから当然と言えば当然です。

 サーサーン朝よりはマシですけれど、アッバース朝への無関心さも似たようなものです。amzon.co.jp 、本のカテゴリでアッバース朝で検索すると13件ヒットします。このていたらくで正統占星術が日本にあったら奇跡でしょう。となると当ブログは奇跡的ブログ?、奇跡の占星術

 冗談が冗談でないところが笑えないところなのかもしれません。

 占星術に限らず、文明史的にアッバース朝がいかに重要か、アッバース朝なくして後のルネサンスは想像できません。随分と変わった歴史となったはずです。

 

☆、占星術の黄金時代

 占星術の黄金時代は9世紀のアッバース朝の時代です。8世紀末から9世紀前半とも言えるかもしれません。カリフでいえば10代ムタワッキルが暗殺された861年までです。占星術師の人物で言えば886年没のアブ・マシャー(アブー・マーシャル)まででしょう。、

 マシャアラー、その弟子のアブアリ 、ウマールアルタバリ、サール、アルキンディ、大トリがアブマシャー、ビッグネイム綺羅星のごとく。モダン、非モダンを問わず、今日の占星術のテクニックのほとんどのネタ元は、この黄金時代にあります。

 その黄金時代の占星術師の最大級のネタ元がドロセウスです。故にドロセウスこそ占星術です。中世イスラムは、インドを採用せず、ドロセウスとプトレマイオスを採用しました。黄金時代の占星術師の多くはペルシア系です。恐らく、サーサーン朝にとって、文化的な師匠はギリシア(ヘレニズム)で、インドは格下とみなしていたからでしょう。ミスラ信仰、サーサーン朝時代のマニ教イラン系クシャーナ朝によるインド支配、ペルシアの方が格上と考えたとしても穏当と言えましょう。人間というのは、格下を師匠とすることは抵抗があるものです。近代の日本は、この点で大失敗をしています。占星術は師匠(父)から弟子(子)に伝える技芸です。誰が何が師匠なのか、ネタ元なのかこだわる、これが伝統的占星術です。

 サーサーン朝時代の文献はほとんど残っていないようなので、ギリシア語とアラビア語の文献が伝統的占星術の古典です。それも残っていないならラテン語文献に頼ることになります。マシャアラーや(偽)アリストテレスの書、ナインジャッジなどが貴重なラテン語文献です。

 

 サーサーン朝系色が最も濃い文献がこれです。ラテン語からの英訳です。中世ペルシア語の原典は残っていないようです。難解なので有識者向けです。ラテン語からの英訳とはいえ、これを現代の言語に翻訳したダイクス博士は500年に一人の占星術師と言ってよいでしょう。

 

Persian Nativities I: Masha'allah and Abu 'Ali

Persian Nativities I: Masha'allah and Abu 'Ali

 

 end