Last seen chart

☆用語
 当ブログではリリーの「Christian astrology」をCAとも表記するものとします。
 Event charts(イヴェントチャート)は実はネイタルの一種です。定義次第ですが。イヴェントのうち人の出生をネイタルとかnativitiesとか言います。ネイタルを人の生起に限定しなければ、この地上のあらゆる生起はネイタルです。国家の誕生いわゆる始原もネイタルです。ただネイタルを人(or動物)の誕生に限定したい人もいるかもしれません。当ブログではイヴェントは発生であり人の出生も含むという立場です。しかしながら、人、動物、組織または国家など以外の発生を特に意識してイヴェントと言うこともあります。文脈によります。

 質問の生起をイヴェントとみなすかどうかは好みの問題です。

 

☆モダン占星術の直接的源流
 リリーは、モダン占星術派(隠れを含む)の古典です、モダン占星術の一大ソース(source、源泉)です。あるいはリソース(資源)というべきか。リリーは“古典”占星術派の古典ではありません。海外でもそういう誤解はあります。特に英国。しかし日本では例によって誤解派が大多数です。リリーをモダン派のリソースと正しく認識している人はほぼ皆無です。リリーがモダンであることを正しく認識しているのは、当ブログ以外では二人しかいないかもしれません。その一人が「Hiroのオカルト図書館」さんです。
 「Hiroのオカルト図書館」さんは、ザドキエル編著の「an Introduction to Astrology」を和訳して公開しています。また、以下二点の重要な指摘をしています。一体何者なのでしょうか?
 CAは「現代占星術の基礎を確立」
 リリーは「現代占星術の父」

 

ザドキエルのIntroduction
 「an Introduction to Astrology」 by William Lilly, Zadkiel, ed. 1835年刊は、CAの要約版であり、モダン占星術の最大級のリソースとなった文献の一つです。19世紀末にモダン占星術(の一派)を作るときに参照されたのがこの本です。本家のリリーのCAは当時もはや市中には出回っていなかったらしい。あるいは古本屋にはあったのかもしれないけれどCAは何度読んでも理解困難、占星術師にとってすら。逆に言えば読むたびに気付きがあるはずの韋編三絶ものです。実際リリー派の首魁的存在であったバークレイ女史は、韋編三絶並みにCAを読んでいたようです。
 そういうわけでモダンのリソースとなったのはCAの a re-edition の「an Introduction to Astrology」です。これですら20世紀モダンにとっては相当難解ですが。自らのネタ元であった Introduction ですらその難解さのゆえに?あまり重要視されなくなっていったのが20世紀モダンの歴史です。
 リリーはモダンの(modern、現代の)父との指摘は正しいのですけれど、その根拠となるテクニックの解説までは日本語ではなされていません。今回その一つのテクニックを本邦初公開します。

 

☆最終目撃図
 17世紀英国の占星術、特にリリーは、モダン占星術の最大級の原資(source)です。ことホラリーに関しては空前絶後、リリーは伝統的占星術界の最大のスターです。モダン占星術に最も影響を与えたのはリリーです。伝統的占星術界の8世紀末から9世紀前半の古典期の著述家たち、マシャアラー、ウマーアルタバリ、アル・キンディ&ホラリーの達人サールなどはリリーの影響など一切受けていません。そういう古典期の著述家の影響をリリーは受けています。ただその受け方がどうも怪しい、モダンだけに。
 何しろリリーの時代から800年以上前のこと変質(進化?、歪曲?)も著しい。12世紀後半ラテン欧州で編纂された有名なナインジャッジ(the nine judges)を読めば、現代のホラリー占星術はリリーの子孫だとは言えても、ナインジャッジに登場する大家たちの子孫だとは言い難い。

 ナインジャッジは、8世紀末から9世紀の中世イスラムのホラリー占星術のテクニックを集めたものです。650ページ以上の大著です。当時のラテン欧州のアラビア世界の占星術への心酔ぶりや熱中ぶりが想像できます。
 ホラリーなる占星術の新部門が確立してまだ50年も経過していないホラリー古典期の大家であるウマーアルタバリやアブ・アリのホラリーのテクニックを英語で読めるのは、多分、この書だけです。なお9人の大家のうち、リリーが大きな影響を受けたのは、サールとアル・キンディです、多分。
 もっとも9世期のホラリーも古典古代(AD478年)のイレクション(インセプション)とはずいぶんと違いますが。ただ古典古代のイレクションの実占例といのは、アンソニー・ルイスが紹介している一例しか見たことがありません。以前述べたように古代は虐殺同然に抹殺されてしまったので。

 その読み方は当ブログで展開しているネイタルの読み方に近い。ASCルーラとライツがアワーメーカ(ASCサイン)を見ているかどうかで判断をするメソッドです。それはさておき、
 現代の占星術シーンに与えたリリーの濃い影響の一つが Last Seen Chart(以後LSCと称します)です。行方不明者の問題に、質問チャートではなくイヴェントチャートの一種であるLSCを使うという発想は、恐らくナインジャッジにはありません。というのは、中世や古代の感覚では大きなお世話だからです。
 現代は無料同然にチャートを気軽に立てられます。しかし中世まではチャートを立てること自体が難作業でありました。場合によっては天体観測が必要だったかもしれません。プロの占星術師(天文学師)か数学者でないとできません。利害関係者でもないのに占星術師に何事かを依頼するという発想は希薄だったと推定できます。
 なおLSCは、17世紀のリリーの用語ではありません。このコンセプトの言い出しっぺが誰か不明です。しかし明確に打ち出し現代にまで影響を与えたのは、リリーのChristian Astrology(CA) です。
 さてLSCのコンセプトはCAのどこに書いてあるか、CAの邦訳書が出版されたのに、例によって誰も指摘しないので、ここで指摘しておきます。
 CA、第2書の24章151ページ。なおザドキエルの Introductionでは23章です。「Hiroのオカルト図書館」さんのサイトを訪問すれば日本語で読めます。

 

CAから引用開始
Whether One Absent be Dead or Alive.

 If a Question be demanded of one absent in a general way, and the Querent hath no relation to the party; then the 1st house, the Lord of that house and the Moon shall signify the absent party; the Lord of the 8th House or Planet posited in the House or within five degrees of the Cusp of the 8th House shall shew his death or its quality.

 In judging this Question, see first whether the Lord of the Ascendant, the Moon and the Lord of the 8th House or Planet in the 8th house be corporally joined together; or that the Moon, Lord of the Ascendant and the Lord of the 8th are in Opposition either in the 8th and 2nd, or 12th and 6th, for these are arguments the party is deceased, or sick, and very near death.

引用終わり。

Introductionから引用開始
   Whether one absent be dead or Alive?

 If the quesited have no relation to the querent, then the ascendant, its lord, and ☽ shall signify the absent person. But if the party inquired after be a relation, then take the house and its lord which signifies that relation; as the 3d for a brother or sister, The 4th for a father, the 6th for a paternal uncle or aunt, the 10th for a mother, &c.

 In judging this question, see whether the quesited's lord of the 1st and 8th be joined corporally together in the 8th, or be in ☍ from the 6th or 8th. These are tokens of his being sick or near to death.

引用終わり。

 ザドキエルは、なかなか巧みに要約しています。しかし5度前ルールは省略しています。
 ザドキエルの要約のゆえに歴史的に有名な誤解が生じたものもあります。サインの順でハウスを順に支配の勘違いです。ザドキエルは、各ハウスの consignificators としておひつじからうおまでのサインと土星から月そして土星から金星までのカルディアンオーダーの天体を指定しています。歴史的な混乱の源(みなもと)です。言うまでもなくサインとハウスは別物です。ただしカルディアンオーダーは間違っていません。正しいものに間違っているものを混ぜて歴史的ひょうたんから駒になってしまった一つの見本です。というのは、19世紀末以後のモダンは、間違っているサイン順のほうを残して、正しいカルディアンオーダーのほうを捨ててしまったからです。世の中こんなものです。

 CAではこの後、種々のノウハウの説明が続きます。天体が位置する度数の吉凶をみるというのは斬新かもしれません。しかし、リリーはこの章ではLSCの実例を挙げていません。すなわちリリーのテクニックを検証なしに使うことはできません。しかしながら、上記引用文に明記されているように、第1ハウスルーラと質問事項であるハウス、今の場合第8ハウスルーラの関係(主としてアスペクト)を観察するというのは、20世紀以後のホラリーのテクニックと同様です。なお第1ハウスルーラとともに月を必ずみるというのは古典期の大家と同じやり方です。なおこれは20世紀以後のモダンでも同様です。月以外はそんなに動きませんから。実占をやれば、伝統派でもモダン派でも、タイミングやアクションを月が示していることに誰でも気づかされます。

 

☆LSCの実例
 ここ日本でも原因不詳の失踪(神隠し?)が年間1万3千件以上あるようです。LSCの実例としては例えばこのチャートが挙げられます。行方不明となったのは小学1年の女児です。

http://www.horoscope-tarot.net/horo/s/bdfcd2a2b07c1079d784f9199f402d61.html

 ヘッドの真値はかに14度、平均値はかに13度。
 ロットオブフォーチュンはさそり4度。
 レギオモンタヌスでの第8ハウスカスプはおとめ28度、これはPlacidusと同じです。Kochだとおとめ20度。火星が第8ハウスカスプにオンとなります。2019年東京春分図のASCサインはおひつじです。第8ハウスサインはさそりです。
 人であれペットであれ月は不明者のナチュラル表示天体です。ホールサインハウス(全体サイン)だと月ふたごは第5ハウス。野外で遊んでいて不明となったので状況に合っています。月は、友達を示す場所にいる木星からオポ(すれ違いのアスペクト)でセパレイトしているのでこれも状況と合っています。友達と合流するはずのアクションが運悪く外れてはぐれてしまったようです。月はセクトライトではないハズレの月なので凶意含みです。
 ホールサインハウス以外のハウス方式では、月は第4ハウスにインです。自宅からいなくなったわけではないので解釈に名人芸が必要です。月から第5ハウスカスプまでの距離が近い順に、レギオモンタヌス、コッホ、そしてPlacidus(5度38分差)。5度前ルールを概ね満たしています。実際の Lst seen の時刻は15:40ではなくその数分前だったのかもしれません。
 ホラリーのハウス分割方式はなんでもokです。リリーのような名人なら。リリー以後最大級のホラリーの名人は恐らくジェイコブソン女史(ヤコブソン女史)でしょう。彼女は Placidus で何十年もプロとして飯を食っていました。しかし初心者はホールサインハウスを使うのが無難です。名人芸がいらないので。
 もっとも名人を目指す心意気なら、例えばレギオモンタヌスのほうが向いています。ホールサインハウスは深読みするには向いていないので。

 

  モダンのホラリーのネタ本がこれです。モダンのネタ本とはいえ、ことホラリーに関しては空前絶後の大著です。モダン、非モダンを超越してホラリー(どころか占い全般)の永遠の名著です。初心者は、この本が必読になることが当面の目標と言えましょう。

クリスチャン・アストロロジー 第1書&第2書
 

 

end