☆海王星
海王星が何を象徴するか諸説あります。騙したり、騙されたり、欺瞞(deception)を象徴します。deceit(詐欺), delusion(妄想)も海王星の管掌事項と言えます。
吸血虫的な天体である海王星はどこにでも侵入してきます。特に月と海王星のアスペクトには要注意です。ソフトならましですがハードはなかなかに非生産的です。
後述のルイスのブログによると、米国の歴史的なタロットの著作家三名の生年月日は、月と海王星に特徴がある日とのこと。常識すぎる話しではありますが。
占星術師と海王星の不思議な因縁については機会があれば後日述べるかもしれません。
☆参考文献
Greek horoscopes、Otto Neugebauer & H B Van Hoesen、1959年初版。
Horary astrology plain & simple、Anthony Louis、1998年初版。
Hellenistic astrology、Chris Brennan、2017。
Otto Neugebauer(1899-1990)、オットー・ノイゲバウアーは有名な科学史家らしい。日本語の Wikipedia に記事があります。Henry Bartlet Van Hoesen(1885-196)は librarian (図書館員)だったらしい、しかし詳細は分かりません。
☆ 謎の(海王星的?)占星術師Palchus
ルイスは、上述の自著の179-181ページにおいて、古代のホラリーチャートの実例として、「Greek horoscopes」掲載の占星術師 Palchus によるチャートを紹介しています。
このチャートの成立地はエジプト/アスワン(Syene)で、報告されている作成日時は、478年8月29日22:30です。現代の計算によると、ASCサインはおうし、MCサインはみずがめ。Palchusの計算と現代のコンピュータ計算との誤差は、天体については1度から4度です。動きが速い月の誤差も3度ですから、このチャートの時刻データは恐らく正しいのでしょう。
しかしながら、ここで疑問が沸きます。デリニエイションいわゆる鑑定は口頭でなされるもので、それを記録に残し、かつ現代にまで残るというのは、きわめて稀だという事実です。古代のテクニックはうんざりするほど多く現代にまで伝わっています。その精度は問題大ありですが。しかしながら実際のところ古代の占星術師がどうやって占っていたのかは謎なのです。5世紀のPalchusだけほぼ唯一の例外的にデリニエイション例が残っているというのはどうにも怪しいわけです。もちろん真相は謎です。
学問としての占星術研究では業界トップランナーだったブラウン大学教授ピングリーによると、 Palchus の正体は 14世紀のビザンツ帝国の占星術師ということのようです。Palchus はいわゆる偽名です。5世紀にそういう名前の占星術師がいたのかいなかったのか不明です。上述のブレナンの著書によると、このチャートの起源は、ビザンツ帝国の皇帝ゼノン(在位474-491)のお抱え占星術師(名称不明)だとのこと。
日本語のWikipediaのゼノンの記事によれば、ゼノンは確かにお抱え占星術師が必要な波乱万丈な人生だったようです。ローマ皇帝というのはやたら暗殺されました。ローマ人でなく嫌われていたゼノンが暗殺されなかったのはお抱え占星術師のおかげ?
14世紀の偽名のPalchusは、古代の記録をそこから得ていたらしい。チャートの記録は5世紀で正しいようですが、そのデリニエイションが5世紀起源のものなのか、14世記に追加のものなのか、今となってはわかりません。
☆偽名による重要文献
伝統的占星術業界には偽名がはびこっていますから注意が必要です。では偽名の著作には価値がないのかというとそうではありません。占星術史上最も有名な偽名による書物は、おそらくプトレマイオスの百箴言です。この百箴言は、プトレマイオスの著作とされていたために、西洋の占星術に最大級の影響を与えました。もちろんこれはプトレマイオスの著書ではありません。ただ、この百箴言の真の著者の狙いは当たったと言えます。プトレマイオスというブランド力のおかげで占星術史に残る影響を与えることに成功したからです。百箴言は偽プトレマイオス以外に何個か現代にまで伝わっていますが、格調という点では、偽プトレマイオスのものが一番高いという印象があります。だからこそ16世紀まで?みな騙されたのでしょう。
ほかの例では偽アリストテレスの書。これは非常に重要な文献です。中世イスラムの占星術の最大級の元ネタの一つです。サーサーン朝ペルシア起源のほぼ唯一のまとまった文献です。タイムロードとして有名なフィルダリアの初出は、おそらく、この偽アリストテレスの書です。
本物、偽物含めて現代にまで残っている資料はすべて貴重です。ただ騙されないように冴える必要があります。
ピングリーですら騙されています。偽アリストテレスの書の著者をマシャアラーとしたのはピングリーです。もちろんこれはマシャアラーの著書ではありません。ピングリーは占星術師ではないので無理ないところです。偽アリストテレスの書はマシャアラーとは同一著者の範囲をこえて占術のスタイルが違います。これは実占家でないとなかなかわかりづらい。
他山の石、実際ここ日本でも業界をリードする占星術家と目されている人たちも騙されている例が散見されます。
中世イスラム時代の占星術の屈指の重要文献である(偽)アリストテレスの書を所有していた、数学者(魔術師?)にして占星術師かつ初代007? のジョン・ディーが登場します。
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