ハイレグ

 新年特別企画、ハイレグの謎。

 

 2022年、あけましておめでとうございます。

 

 前回アフェタ(スタート天体)について一応記述したので、アフェタと混同されやすいハイレグについて今回記述します。

 謎多きハイレグなる用語とコンセプトはアーリーモダンすなわち15世紀後半ないし16世紀以後の西洋占星術界に伝わっています。今日のモダン占星術界では、ハイレグはほぼ使われません。しかし20世紀モダン占星術界の大物占星術師の一人である Llewellyn George はハイレグを使っていました。これは彼の主著、A to Z horoscope maker and delineator を読めば明らかです。もちろんこの本で解説されているハイレグはモダンのそれであって中世イスラムまでのいわば本場のハイレグではありません

 しかし現代においても乳児や幼児が生き延びるか?というような質問がなされなければならない切羽詰まった状況にあっては、ハイレグを使わずにそれに答えることは困難です。見たくないことを見なければそれが無いことになるわけではありません。残念ながら幼くして亡くなる人は一定数います。どうやって生き延びるか、サヴァイヴァルを模索するのに、実用的占星術なしでは困難です。

 

 20世紀モダン占星術三巨匠の筆頭格のカーターは、ハイレグについての色々なルールは、従来から主張されているように機能するか、あまりにも疑わしいとしています。この辺がカーターの凄さと限界です。カーターが疑っているようにモダン占星術界にかろうじて残っている伝統的テクニックは役に立たないことが多い。一方でカーターは本当の占星術、本物の伝統的占星術については何も知りません。本当のハイレグについても知りません。カーターが活動していた時代は本物の伝統的占星術などほぼ無かった時代です。カーターを責めるのは酷でしょう。

 モダンでもこの問題(infant mortality, 幼子の運命)に正面から取り組んでいる占星術師はいます。モダン占星術三巨匠のひとり Vivian Robson(1890-1942) です。

 ロブソンは、a student’s text-book of astrology のホロスコープの判断の部の第二章をまるまるこの問題にあてています。ページ数としては約4ページ半です。そこでは当然のことながらハイレグを問題にしています。このようにハイレグは寿命の判断には必須のテクニックでした。ハイレグ, hylegなる言葉は英語起源の言葉ではなく英語としては意味不明です。しかし前回の当ブログで述べたようにモダンの伝統的には、その意味はハイレグ= the giver of life です。

 ちなみにロブソン式のハイレグ、寿命星の求め方は、大きく言えば、ライツとASCの度数、いわゆるビッグスリーをハイレグの候補として取り上げ、一定の手続きを経てそれらのうちどれがハイレグとなるか決めるというものです。

 モダン占星術セクトを失ってしまいました。セクトを取り入れればロブソン式はモダンでは一番ましです。ロブソン式は後述するアブアリ式をある程度継承しています。

 夜チャートで太陽が第1ハウスならロブソン式では太陽が寿命星になります。しかし夜チャートならたとえ太陽が第1ハウスであってもまずは月を検討すべきです。検討した結果、月が寿命星として不適切なら、この場合、ほぼ太陽で決まりです。

 寿命問題において、昼夜のチャートの別で、検討すべきライツを変える方法は、アブアリ(Abu’Ali)式を推奨します。アブアリは師匠のマシャアラーをほぼ忠実に踏襲しています。ならばマシャアラー式のほうが良いのでは?、そう思うかもしれません。マシャアラー式でもokですけれど、マシャアラーは夜チャートについては述べていないので、アブアリ式のほうが初級者には取り組みやすい。ちなみにハイレグについてのウマーアルタバリ式は初級者には無理です。中級者向きです。

 古代や中世イスラムにおいては、寿命計算は、占星術師の最重要任務であったことは想像にかたくありません。占星術師を雇っているのは権力者であり、権力闘争の場裏(範囲内)では一寸先は闇、権力者は暗殺のリスクにさらされているわけです。ローマ皇帝などやたら暗殺されますし、中世イスラムのカリフも同様です。カリフの初代から4代目までのうち、3人は事実上暗殺されています。5代目は公式的には病没と言うことになっていますが毒殺されたというのは公然の秘密のようです。これでは占星術師を雇わないことにはおちおち夜も寝られません。

 現代ではそういうリスクは激減しました。しかし人類の前から不運(火星&土星がその代表的象徴)がなくなったわけではありません。死亡率が下がったとはいえ寿命計算の技術を失うことは文化的損失です、多分。

 そういうわけでハイレグ、寿命星という考え方とテクニックは、現代でも相応の重要性があります。

 ところでここで問題が。永らく謎だったハイレグなる用語の意味が判明したのです。

 ハイレグは中世ペルシア語の hilaj が語源です。ハイレグなどと言う概念は中世ラテン欧州にはありませんから hilaj をそのままラテン読みしてそれが英語読みで hyleg になりました。hilaj の意味は現代の英語なら releaser です。あれ、寿命星(the giver of life)の意味はどこへ行った?

 ハイレグは、本来は releaser,リリーサー、解放者です。それ以上でも以下でもありません。寿命計算には、 longevity releaser を使います。またリリーサーはあらゆる種類の予測に使えます。中世イスラムにおいては主用途がリリーサーを使う寿命計算だったわけです。

 ハイレグがリリーサーだとして、寿命星は何と称すればよいでしょうか。それは、Kadukhudhah です。中世ペルシア語です。これをダイクス博士は domicile master と訳しています。ダイクス博士によると、デフォルトのリリーサーはASCの度数であり、標準のドミサイルマスターは、リリーサーのバウンドロードだとのこと。

 もうおなか一杯なのでこの辺で。“本当の占星術”はややこしいが楽しい!?

 

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