アフェタ

 一年の締めくくりに日本唯一の正統占星術処(どころ)にふさわしいトピックを記します。今回のお題はアフェタです。apheta(アフェタ) もしくは alpheta(アルフェタ)。ギリシア語起源の用語です。

 

 1968年の ダル・リー(Dal Lee)の著書、dictionary of astrology には alpheta, apheta なる項目があり、hyleg(ハイレグ)を見よとなっています。その hyleg の項にはハイレグ=ア(ル)フェタであり、ハイレグは “giver of life” と推定されるとあります。この記述は、デ・ヴォア(de Vore)の事典のハイレグの項の影響を受けています

 デ・ヴォアの事典のハイレグの説明では、ハイレグは the giver of life(生命の与え主)であり、アフェティックプレイス(aphetic places)にある最も強い天体がハイレグであり、さらにこのようにして決めたハイレグ=アフェタだとしています。この説が20世紀モダンの多数意見かもしれません。

 

 illustrated A -Z of understanding star signs , 2002,(「図説 星の象徴事典」)では、アルフエタ(alpheta)を授命星、ヒュレグ(hyleg)を寿命星としています。なかなかに絶妙な日本語訳と言えます。アルフェタというのは領域であり、その領域にある適切な天体をアルフェタとするという考え方です。一方ハイレグは寿命を決定するのもので、ハイレグの候補として、ライツ、ASC, MC, ロットオブフォーチュンを挙げています。星の象徴事典ではアフェタとヒュレグがどういう関係なのか説明していません。ただ両者とも命を与える者としていて、しかもアフェタの説明ではアフェタは領域としていますから、これもデ・ヴォアの説明を継承していると言えましょう。

 

 アフェタの対義語がアナレタ(anareta, destroyer, 破壊者、殺人星)です。アフェタもアナレタも20世紀モダンではほぼ使われないテクニックですけれど、用語そのものはモダン占星術界にも伝わっています。以前述べたように占星術事典ないし占星術辞典はモダン占星術のものしか市販されていません。モダン占星術の事典でトップと目されているのがデ・ヴォアです。市販されている占星術事典類はそれぞれ一長一短ありますけれど、網羅性と正確性でデ・ヴォアが業界トップであることは間違いないでしょう。邦訳もあるジェームズ・ルイスの占星術事典(「占星術百科」)は正確性では業界トップクラスですが網羅性に難があります。結果、副読本的な事典になっています。

 モダンの元ネタの一つとなったという点でウイルソンの辞典は歴史的価値はトップです。しかし網羅性にやや難があり、ときにあまり正確でなかったりします。

 

 ちなみに、そのウイルソンの辞典では、ハイレグ=アフェタであり、ハイレグの項ではなくアフェタの項で約2ページ半の紙幅を割いてプトレマイオス流のアフェタの説明をしています。ウイルソンは、プトレマイオスのテロラビブロスを英訳しているからでしょう。ウイルソンは、これでもかとばかりにアフェタについて20世紀モダンでは手に負いかねる複雑な説明をしています。デ・ヴォアは、ハイレグは複雑(the most complex and controversial)だからという理由で、説明を簡略化しています。まさにモダン、簡略化したがゆえに物議をかもすこと(controversial)になってしまいました。

 以前当ブログで述べたように、大きく構えて言えば、モダン占星術は伝統的占星術の簡易化版です。その簡易化があまり上手でなかったので19世紀後半以後のモダン占星術海王星占星術になってしまいました。20世紀モダン占星術は、人のイマジネイション力を刺激しますけれど、言ったもん勝ちの世界になってしまいました。言われれば、人間と言うのは妄想だけはたくましい。古今東西を問わず人間のイマジネイション力の凄さは、ギリシア神話マハーバーラタ(核戦争を思わせるほどの描写)そしてヨハネ黙示録を読めばわかるかもしれません。黙示録は約1900年前の著作ながら20世紀や21世紀では困難なイマジネイションの発現の好例です。何しろ7つの頭と10本の角を持つ赤い巨大な竜がその尾で天上の星の1/3を叩き落としてしまうのですから。極限までのイマジネイション力です。黙示録の作者とされるヨハネ冥王星を使ったのかもしれません。モダン占星術では、monsters, 非常に大きな大災害(great な大惨事) は冥王星が象徴します。

 

 アフェタがギリシア語起源の用語だとすると、英語としては意味不明のハイレグは中世ペルシア語起源の用語です。中世ペルシア語→ラテン語→英語のhyleg→日本語のハイレグ。なおヒュレグという日本語表記もあります。上述の「星の象徴事典」ではヒュレグを採用しています。なおギリシア語のアフェタがハイレグとなったのかどうかは不明です。多分アフェタは本来スタートというような意味で、中世ペルシア語でスタートに相当する語がハイレグ(hilaj)だったのかもしれません。

 

 ハイレグというのは中世ペルシア語の hilaj が語源です。これは現代の英語では releaser(解放者、放出する者)という意味です。標準のリリーサーは当然にASCの度数です。あらゆる天体や占星点はリリーサーとなり得ますけれど、ASC以外では、ライツ、ロットオブフォーチュン、生まれる直前の新月ないし満月がリリーサーの有力候補です。

 これは当方の意見ですが、リリーサーは“開けゴマ”として機能する点です。チャートのポテンシャルを引き出す者です。欧州に占星術が帰ってきた12世紀以後のアフェタやハイレグと本来のハイレグ(リリーサー)はいささか趣を異にします。

 占星術界は、約900年間、ハイレグをある種誤解していました。ハイレグがリリーサーであることを明らかにしたのは、千年に一人の占星術師(に進化中)のダイクス博士です。

 さて話しをアフェタに戻します。前回の当ブログではタイムロードのデシニエルズを推しました。デシニエルズのスタート天体はアフェタです。史家のホールデンによると、ギリシア語のアフェテイック(aphetic)というのは文字通りにはスターティング(starting)という意味らしい。ホールデンの歴史書、第二版30ぺージの脚注にはそう書いてあります。これを疑う理由もないのでそうなのでしょう。

 デシニエルズのスタート天体はアフェタです、ハイレグ(リリーサー)ではありません。しかしながらアフェタ=ハイレグ= the giver of life というあまり適切でない理解は根強いので、アフェタのかわりにスタート天体なる言葉を使いました。デシニエルズのスタート天体は、昼チャートなら太陽、夜チャートなら月が標準です。しかし必ずそうなるとは限りません。この辺が”本当の占星術”の難しさです。簡単化(≒モダン化)すると、どうしても外れる部分が出てきます。しかしながら初級者は、デシニエルズのスタート天体として、昼チャートなら太陽、夜チャートなら月でokです。それであまり当たらないと思うなら、別のタイムロードシステム、例えばフィルダリアを試してみると良いかもしれません。それでもフィルダリアよりはデシニエルスの方が当たるはずだ、それが当ブログの主張です。

 

 本年の更新はこれが最後です、よいお年を。