アルムーテン

 almuten, ラテン語です。ラテン語の英語読みというべきかもしれません。

 近年日本でも知られるようになったアルムーテンは、アラビア語の mubtazz のラテン語読みです。中世ペルシア語のアラビア語読みではなくアラビア語のようです。英語なら victor, 勝利者、勝利星です。アルムーテンの元祖の古典古代のギリシア語なら epikratetor で現代の英語なら predominator, 優位者、支配者です。プレドミネイター→ mubtazz →アルムーテン→ヴィクター→勝利星です。

 ダイクス博士の『伝統占星術入門』、2019年4月刊の用語集230ページには勝利星の記述があります。しかしながらこれを読んで理解できる日本人がいるとは思えません。ダイクス博士は、勝利星を見つける手順において、場所「に対する」と場所「における」を区別している、とのことです。

 

 こんなのわかるかー!?

 

 2010年以降のダイクス博士の著作には、ほぼ毎作、用語集がついてきます。その内容は毎回ほぼ同じです。ところがごく一部の用語は改定されています。勝利星、victor は改定の度合いが多いものの筆頭クラスの用語です。2010年刊の Introductions to Traditional Astrology の用語集の victor の記述はわずか2行です。2017年刊の著書ではそれが6行に増えています。2020年の著書ではそれが4行に減っています。やや冗長だった記述を整理したようです。上述の『伝統占星術入門』の用語集の勝利星の記述は6行版の翻訳です。

 2017年の『Carmen Astrologicum』の用語集によると、ダイクス博士は、勝利星を見つける手続きにおいて、”over”placesと”amang”placesを区別しているとのこと。英語にすると日本語よりはわかりやすいようです。しかしそれでも理解困難です。

 日本で知られているアルムーテン特にホラリー占星術で使うアルムーテンは、”over”なのか”amang”なのか、どちらなのでしょう?。そういう問題意識を持った人はいないのかもしれません。天体を点数付けして勝利星を見つける方法なら結局”amang”の手続きになるような気がします。

 

 これをみても想像できるように、この用語について語ると混乱は必定です。アルムーテンがプレドミネイター的な意味だとするとハイレグ(リリーサー)との違いが不明確になり混乱します。ギリシア時代には、プレドミネイターのルーラがマスターオブザネイティヴィティ(ラテン語ならアルココデン)になるという考え方があったようです。となるとアルムーテンはハイレグになってしまいますが、もちろん今日、アルムーテンをハイレグの意味で使う人はほぼいないはずです。

 

 アルムーテンは、モダン占星術にも用語としては伝わっていますけれど、モダンではほぼ使われないテクニックです。モダンはセクトを捨ててしまったので多くの有用な技法を失ってしまいました。アルムーテンもその一つです。占星術が大衆化したとも言えます。どんな選択にも功罪はあると思いますが、当店は占星術の大衆化は害のほうが大きいという立場です。大衆化≒海王星化なので、ボケたい人には好都合ですが冴えたい人には有害です。

 モダン占星術のネタ元の一つのウイルソンの辞典では、アルムーテンは、エセンシャルディグニティズにおいてまたはアクシデンタルディグニティズにおいて、最も強力な天体だとしています。エセンシャルまたはアクシデンタルにおいてという点は、後続のデ・ヴォア、フレッド・ゲッティングズでも同様です。デ・ヴォアの特徴の一つがネイタル限定(in a Nativity)になっていることです。これは後続者たちもほぼ引き継いでいます。

 

 正確さでは定評があるものの副読本的な記述になっていることが惜しい Larousse の事典では、なんと almuten を載せていません。この事典、モダン占星術界の成果一つののピークをなす書籍ながら、モダンすぎです。

 ジェームズ・R・ルイス(Lewis)の占星術百科(原題、The Astrology Book: The Encyclopedia of Heavenly Influences)では、デ・ヴォアの記述の一部をほぼそのまま引き写しています。歴史的には200年以上前のウイルソンが重要ですが標準的事典ということなら70年以上前のデ・ヴォアが依然として定番です。ルイス本の原題には Encyclopedia なる言葉が入っていますけれど、事典なのに副読本みたいな点では業界トップクラスです。ただし執筆陣が強力なので読んで一番面白いのはルイス本です。ただセクトもホールサインハウスもオーヴァーカミングもアヴァージョンも載っていませんので、伝統的占星術のテクニックに興味がある人には向きません。

 

 今日、アルムーテンは、ネイタルよりもホラリーで話題になることが多い。しかし元々はネイタル占星術の技術です。アルムーテンなる考え方の元祖は古典古代のギリシア時代(国家的にはローマ帝国かも)です。上述したプレドミネイターです。ここではプレドミネイターは解説しません。ただプレドミネイターがネイタル占星術由来特に寿命判断の技術由来であることはほぼ間違いありません。デ・ヴォアがそのことを知っていたとも思えません。1940年代、ホラリー占星術絶滅危惧種扱いだったのです。

 

 これは当方の認識なのであてにならないかもしれません。ホラリーにアルムーテン的な考えを持ち込んだのはマシャアラーです。なおマシャアラーはネイタルでもアルムーテン(mubtazz)なる用語を使っています。本来ネイタルの技術だったアルムーテンをホラリーでも確立させたのはサールです。誕生図の天体をエセンシャルディグニティズによって点数化することを確立したのはウマ(ル)・アルタバリです。

 今日アルムーテンといえば、ほぼウマ・アルタバリ式つまり点数をつける方式が標準です。ネイタルにおいてもホラリーにおいても。

 どんなジャンルのチャートでもアルムーテンを計算してokです。ただ、主としてホラリーで使います。ホラリー占星術において、アルムーテンが有効かどうか諸説あります。当店は有効と言う立場です。ホラリーの場合、点数化しないことには勝利星を決めにくい。

 誕生図でもアルムーテン(勝利星)は有効ですけれど、点数化は必要ないという立場です。してもokですが、天体を評価するのに点数化するかしないかは占星術師の好みの問題です。

 

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