失せ物は何ハウス?

 前回アルムーテンについて記述しました。その思想は古典古代、技術として実用化されたのは中世イスラムの時代、もともとはネイタルの技術、恐らくは寿命判断の技術でした。実は、相当に複雑怪奇な技術です。混乱なしに語ることはほぼ無理です。しかしながらホラリーにおけるアルムーテンの求め方は単純です。ウマ(ル)・アルタバリ式が業界標準です。アルタバリの本職は建築家だったらしい。まるでレンガ積みのような天体評価法、それが彼のウリの一つです。

 アルムーテンを求めた後、どう判断するか、明確な手法はありません。そもそもアルムーテンを使わない占星術師もいます。理屈から言えば、そのトピックにおける最も権威ある天体だから、アルムーテンがそのトピックを象徴するはずです。ドミサイルルーラ(ドミサイルのロード)とアルムーテンは一致することが多いので、運が良い占星術師ならアルムーテンを使わなくても当てることはできます。

 ここでは実際にアルムーテンを求めてみましょう。ハウス方式はホールサインハウスを使います。ホラリーでホールサインハウスを使うのは日本でははじめてかもしれません。ホールサインハウスの場合、ハウスのカスプをどう考えるべきか未解決の問題です。ロバート・ハンドはイコールハウスを示唆しています。イコールハウスを含め占星術師のお好みでどうぞ、です。事実上のワールドスタンダードであるホールサインハウス以外のハウス分割法は結局のところ好みの問題です。ゆえにここではアングルのみ、実際にはASCとICのアルムーテンを算出します。算出すべきアルムーテンはアングルだけで十分なことが多い。チャートは公開されているものをお借りします。

 

 ヘルメス学園通信コース/サンプル動画④「ホラリー占星術」の動画が Youtube にアップロードされています。ホラリー占星術の実際の講義例が1時間以上視聴できるのは珍しいし貴重です。日本の占星術の発展に有意義な動画、ありがとうございます。

 この動画で説明されている技術はアーリーモダンないしモダンのものです。伝統的占星術かどうかは微妙です。モダン占星術のホラリーで失せ物探しと言えば、まずは第2ハウスマターです。モダン的ホラリーのなかでも代表的にモダンなマクエヴァーズ女史の本を読めば明らかです。ただ女史はロットオブフォーチュンも有用だとしています。これは古典的な考え方かもしれません。

 なおここでいう古典というのは9世紀前半までないしアブ・マシャーまでのことを指します。古典の筆頭は言うまでもなくドロセウスです。ドロセウス以後のイレクションとホラリーでドロセウスの影響を受けなかったものは皆無です。すべてドロセウスの解釈だと言っても過言ではありません。

 ドロセウス的な失せ物探しは、盗難物探しのおまけみたいない扱いです。古典的には盗難問題は、大きな紙幅を割いて長々と論じられてきました。古代や中世には泥棒が多かったのでしょう。

 失せ物探しに特化した文章はみたことがありません。失せ物は、埋められた宝探しもしくは盗難のおまけ扱いです。それならまだましで、有名なザ・ナインジャッジには失せ物探しが(全く?)ありません。盗難問題では泥棒の名前まで導き出す技法が書かれているのにです。

 ナインジャッジの第2ハウスマターをみても失せ物については全く記述がありません。これは当然で、古代にはおそらくは9世紀までは失せ物は第2ハウスマターではなかったからです。盗難は第7ハウスマターです。失せ物問題が盗難問題のおまけ扱いだとすると失せ物も第7ハウスマター?。実際ナインジャッジの編集者たちはそう考えていた節があります。

 古典的な考えでは、失せ物は月です。第2ハウスではありません。ではどうして第2ハウスになった?。これは恐らくラテントランスレター達が盗難問題を失せ物問題と混同したからです。占いというのはもっともなシステムを決めると当たるようになります。当たるように感じるだけなのかどうかは未解決の問題です。宝くじの一等を当てるよりは間違ったシステムによる占いで当てる方が容易でしょう。ゆえにモダン占星術では失せ物を第2ハウスマターとしても問題ありません。いまさら間違いでしたとは言えません。

 それに所有権の問題もあります。近代的所有権の概念は西欧の近代において確立しました。たとえばロシアなどは“泥棒率”が認められている社会です。近代的所有権の概念は十分に確立していません。日本もひとごとではありません。欧米ほどはまだ所有権絶対の概念は確立していません。所有権は当然第2ハウスマターです。中世までは失せ物は第2ハウスマターではなかったのですけれど、近代以後(17世紀ごろ?)、1648年に終わった三十年戦争後?、失せ物は第2ハウスマターになったのかもしれません。

 

 ここでは、失せ物探しのチャートの一例として2005年12月24日14:14(午後2時14分)のトランジット図をお借りして検討してみたいと思います。チャート読みの練習に使う失せ物は何でも良いのですけれど、ここではアップされている動画の通りACアダプターとします。モダンではない中世の Al-Biruni(973年生まれ)は adaptable(順応、適応、改造)は月が象徴するとしています。月は失せ物のナチュラルシグニフィケータです。ゆえに失せ物としてACアダプターを採用することは理に適っています。

 この日時での天体の位置は世界共通です。つまりある時点でのトランジットです。それなのにホラリー図として使えるのは摩訶不思議です。チャートはツールなので、失せ物探しのためのツールとして使おうと人が目論むなら、ホラリー図として読めるはずです。一般にチャートよりも人間の方が大事です。

 ある時点での世界共通のトランジットをツールとして使うためには、アングルを決める必要があります。ここではASCサインはおひつじとします。ハウス分割方式は全体サイン(ホールサインハウス)です。

 レギオモンタヌス?。もちろんそれでもokですが、レギオモンタヌスを使うとどうしてもモダン臭くなります。アーリーモダンの時代はレギオモンタヌスの登場から始まりました。世界中モダン臭いホラリーばかりです。このブログでモダンの上塗りをしても日本の占星術の発展に資することになりません。伝統的占星術のハウス分割方式で最も由緒正しいのはハウス-サイン方式です。

 ホールサインハウスのありがたいところはASCの度数を決める必要がないことです。ゆえにASCはおひつじサインでokです。ただしアルムーテンとロッツの計算にはASCの度数が必要です。ここではASCはおひつじの17度とします。

 ICはかにサインとします。ここでのロッツの算出にICの度数は使いませんからサインだけ決めればokです。ASCおひつじなら第4ハウスは必ずかにサインです。しかしICの軸はふたごであったり、ししであったりすることもあります。それではやりにくいのでここでは便宜上かにサインとします。

 今このトランジットチャートを失せ物探しのためのツールとして使おうと目論んでいるわけです。月は行方不明のもの、人または動物などのいわゆるナチュラルシグニフィケータです。つまりICがかにサインというのは実に好都合です。ツールにも出来不出が来あるのは当然で、この場合ICがかにサインなら使えるツール、チャートだということになります。後は読み手の能力次第です。製品や作品の出来栄えは、概ね ツール×人の技能 です。

 

 失せ物探しは何ハウスの問題でしょうか。実は本当のところはっきりしていないのです。見えないものを象徴する第12ハウスかもしれません。実際このチャート、第12ハウスマターだとするとすぐに答えが出てしまいます。

 ASCおひつじ← 火星おうしが質問者。火星は第2ハウスです。第1ハウスではありません。

 第12ハウスうお← 木星さそり第8ハウス。

 失せ物(木星)は友人(第11ハウス)の職場(第8ハウス)にあります。友人のハウスを第1ハウスとみなすとその職場のハウスは第8ハウスです。

 火星おうし9度 オポ 木星さそり11度。オポジションですけれど、いわゆるリセプションです。失せ物(木星)は約2時間後に(?)質問者である火星に戻ります。火星は木星に接近していますから質問者である火星がもの(木星)を取りに行くことになります。

 t火星はt木星とオポになる前に、t土星Rししと□になります。土星Rは友人のハウスの管理星です。ACアダプターを速達で郵送してくれと質問者(t火星)は友人(t土星)に頼んだのですけれど、無理だと断られました。ただし、こんなこと事前にはわかりません。ただ、木星がACアダプターを象徴するとしても間違いではないと検証はできます。

 電化製品特にコンピュータ関連の製品を象徴する天王星うおが第12ハウスなのも素敵です。天王星でイエスノーの判断はしませんけれど、チャートを正しく読んでいるかどうかの確認には使えます。

 

 あれ?、アルムーテンを出す必要がないぞ!?

 

 さそりサインの木星がACアダプターを象徴しているかさらに検討します。こういうのは事前検討は、はなはだ困難です。木星さそりをACアダプターとして読んでもokか確認するのには使えます。

 さそりサインを象徴する色は、黒またはこげ茶色です。

 方角としては水のサインは北です。さそりサインは北方向ながらやや東寄りだとされています。

 横浜市を起点とすると六本木(駅)は北方向やや東寄りです。いつもこううまくいくとは限りません。

 

 失せ物を第12ハウスマターとするのは斬新すぎる?ので、次回は業界の常識に従ってアルムーテンを算出してみたいと思います。

 

end