勝利星

 占星術の醍醐味はチャートを読むことにあります。単に結果を得るだけなら勝利星のテクニックは不要であることが多い。しかしチャートでストーリーを語るためには勝利星が必要になることもあります。

 

 一見簡単にみえるチャート、本当に簡単に読めることもあります。しかし大概のチャートはユニークです。今お借りしているチャートも相当にユニークです。後述するように、t金星とt火星は実にトリッキーな動きをします。

 

 では予告してきた通り、victor、勝利星いわゆるアルムーテンを算出してみます。

 前回および前々回、ICはかにサインとするとしました。昼チャートのかにサインのアルムーテンは、月、木星または金星です。今回、この三つの天体のどれがアルムーテンになってもokです。読めるチャートとなります。しかしここでは、ICの度数をかにサインの10度とします。すると、ドミサイルルーラの月は5点を獲得します。イグザルテイションルーラの木星は4点を得ます。昼のトリプリシティルーラの金星が同点のアルムーテン、いわゆる共同アルムーテン(co-almutens)となります。

 ICの度数かにサインの10度。

 昼のトリプリシティルーラ金星 3点。

 かに10度のバウンドルーラ金星 2点。

 金星は計5点。

 なおICがかにサインの0度から9度なら金星は6点を得て単独のアルムーテンとなります。

 

 おひつじサイン17度のASCはどうでしょうか?。

 ドミサイルルーラの火星は5点を得ます。イグザルテイションルーラでもある太陽は8点を獲得します。太陽やぎ2度がアルムーテンです。

 こういう場合でもドミサイルルーラはサイン=ハウスの管理者です。すなわち火星は質問者の全てではなくてもある面を象徴します。しかしアルムーテンである太陽を無視できません。

 

 チャートを立てた瞬間のトランジット図(←ホラリー図でもある)では、第2ハウスルーラにしてICの共同アルムーテンであるt金星は、t火星にスクエア(□)でアプライしています。

     t金星みずがめ

    /

   □

   ↓

 t火星おうし

    ↓

 

 しかし、あらゆるトランジット図で要チェックの天体であるt月は、t金星にもt火星にもアプライしていません。つまり、質問者を象徴させるのにt火星だけに頼るのは問題があります。ホールサインハウスだと火星は第2ハウスにあり、ASCサインに対しアヴァージョンであることも問題です。

 先ほどt金星はt火星にアプライしていると書きました。ところがt金星はt火星とスクエアを形成する前に逆行を開始してしまうのです。

 

      ↑

     t金星Rみずがめ

   □完成せず

 t火星おうし

    ↓

 

 t金星が逆行を開始した後、t火星おうしはt土星Rししとスクエア(□)を形成します。このクスエアが意味するかもしれない事柄については前々回述べました。何らかのノー的な状況を象徴します。

 

 一方t金星は逆行を続けてみずがめからやぎサインに進入します。

 

      ↑

     t金星Rやぎ

 

 t火星おうし

    ↓

 

 しかる後t金星は順行に転じるもののやぎサインを順行しているうちに、t火星はおうしからふたごサインに逃げてしまいます。

 

     t金星やぎ

    /

   ↓

 

 t火星ふたご

    ↓

 

 つまりt金星□t火星は完成しません。このように、アプライしている天体、この場合t金星が逆行してしまい、度数に基づくアスペクトや合が完成しないことを revoking と言うことがあります。用語を覚える必要はありませんけれど、これは何らかの障害を表します。

 

 さて、この場合、失せ物の有力候補である金星は質問者である火星のもとに戻るでしょうか。これは何とも言えません。ケースバイケースです。アスペクトが完成しないので普通は戻らないと解釈すべきですが、火星は金星が管理するおうしにいますから戻らないと断言はできません。

 ただこれが対人関係の問題ならやはりノー優勢だと思います。

 

 こうみてくると、このチャート、相当にユニークなチャートです。

 なぜ質問者は失せ物を取り戻せたのでしょうか。

 このチャートでは金星と月が共同して失せ物を象徴しているから失せ物が質問者に戻ったのだと思います。t金星は失せ物のありかを象徴していますけれどそれが戻ることまでは保証していません。

 前回述べたように、古典的には月こそが失せ物を象徴します。もっとも、モダンでも失せ物と言えばまず月をみる占星術師はいます。アップルビー(Derek Appleby)がそうです。アップルビーは英国人ですから、祖国の英雄リリーの教えに忠実なのは当然です。失せ物を象徴する天体は月であるとリリーは書いています。そして、これは伝統通りです。モダン占星術の”太祖”ながらリリーが伝統的占星術師でもあることは間違いありません。

 

 このチャートではてんびん第7ハウスに月があります。月は第6ハウスではなく第7ハウスであることにご留意願います。ICの共同アルムーテンにして第2ハウスルーラの金星はおうしとてんびんを管理しますから、置き忘れの失せ物を月と金星が示すことはほぼ間違いありません。金星は逆行してしまいますから、どちらかというと月の方が大切です。

 ホラリーに限りません。誕生図だって立派なトランジットです。トランジット図では月は致命的に重要です。月がセパレイトする天体と月がアプライする天体は要チェックです。特にアプライする天体が重要です。誕生図なら月がアプライしていく天体は職業星になる可能性があります、チャート次第ですが。その時その時の卦を判断するホラリー図では誕生図以上に月は重要です。伝統的7天体のうち月は他の天体の10倍以上速く動きます。重要性はまさにけた違いです。

 このトランジット図では月てんびんは太陽やぎ第10ハウスから□でセパレイトしています。

 ここで待望の?太陽が登場しました。

 前述したようにこの太陽はASCのいわゆるアルムーテンです。質問者をもっともよく象徴する天体です。ホラリーで使うアルムーテンは、ある度数においてエセンシャルディグニティが最も高い天体です。文字通りディグニティ(威厳、品位)を持つものが質問者を象徴するのが当然であるべきです。ホラリーというのは天意を問う占い(卜占)ですから品位なき者がみだりに天に呼びかけるのはふさわしくありません。

 月(ここではACアダプター)が失せ物となってしまった原因は、第10ハウス(職業)の太陽(質問者)にあります。失せ物が見つからないと仕事ができなくなってしまうのでしょう。太陽はてんびんサインではフォールであることは象徴的です。ACアダプターがないとノートパソコンの電源がフォールしてしまいます。

 ではてんびん5度の月はどの天体にアプライしているでしょうか。

 *土星Rしし10度、第5ハウスです。土星はやぎ(職業のハウス)とみずがめ(友人のハウス)を管理します。太陽やぎと土星ししは、ドミサイル(ルーラーシップ)のいわゆるミュウチャルリセプションです。失せ物(月)は太陽(質問者)のもとへ戻るはずです。

 古典的にはというかドロセウス的には、失せ物と言えば月のバウンドルーラの検討は必須です。このチャートの場合、月のバウンドルーラは土星Rしし第5ハウスです。土星Rは職業のハウスと友人のハウスの管理星です。月てんびんを管理しているのは金星で、その金星は第11ハウスですから、どちらかというと失せ物探しのポイントは友人にあります。実際には友人の職場にあったようですが。

 

 前々回述べた木星さそりが登場しないではないかと思う方がいるいかもしれません。友人を象徴する土星Rししは木星さそりから□でセパレイトしています。月てんびんと木星さそりは、アヴァージョンの関係にあります。しかしながら、t土星Rししは、t木星さそりの光を移転(トランスファー)します。t月てんびんは太陽やぎの光を土星Rししに移転します。加えて、太陽やぎと土星Rししは、モダン占星術でいうところのミュウチャルリセプションです。

 

 なお月てんびん第7ハウスであることに注目すると、あることが読めます。ホールサインハウス以外のハウス分割方式では月は第6ハウスです。月が第6ハウスだとしても名人なら読めるのかもしれませんけれど普通の人には無理です。ホラリーにおいてもホールサインハウスは特筆的に使えます。

 

end