ルーラーシップス

 トピックスは多くあっても文章力が追いつきません。ベティ・グレイブルを例に結婚の時期をどうみるかという文章は書いたものの、これまで以上にややこしい。お蔵入りかも。

 伝統的占星術ルーラーシップス(rulerships)を考える上で重要な大家(オーソリティーズ)は次の5人です。
 ヴァレンズ(Valens)、アブマシャー、アルカビシー、“ハリー”(アベンラゲル)、al-Biruni 。

 リリーの言う“ハリー”は恐らく通称アベンラゲルのことです。ハリー・アベンラゲルのラテン語本は一部を除いて英訳されていないと思います。スペイン語訳はあります。業界トップの基本書であり以前紹介した「on the heavenly spheres」のネタ本はもちろんリリーのCAです。しかし、ハリーを最重要参考文献の一つとして挙げています。スペイン語版ですが。ハリー由来の情報を含んでいることも「on the heavenly spheres」の魅力の一つです。

 アルカビシーはアブマシャーの解説者的な立ち位置と言えます。伝統的占星術の書籍と言うのは読みにくいのが常ですが、アルカビシーの記述は業界トップクラスの読みやすさ。教科書として理想的なのがアルカビシー。実際、欧州の占星術に大きな影響を与えました。

 占星術をやるには、天体、サイン&ハウスの意味が必要です。特に重要なのが光を放ち肉眼で見える七つの天体の意味です。
 伝統的占星術のルーラシップス本の代表が Lehman 女史の the book of rulerships です。
 この本は、中世期とアーリーモダン(ルネサンス)期の占星術の各大家のルーラーシップスの諸説を主としてアルファベット順に整理整頓したものです。もっとも中世期の大家は al-Biruni(アル・ビールーニー) だけです。他は伝統的占星術ではあるものの、時代的にはアーリーモダン期の大家ばかりです。リリー、ガドベリ、ラムジーなどです。
 史家のホールデンによると中世の時代は8世紀から15世紀前半までです。15世紀後半からアーリーモダン期です。通常、1500年から1700年までを、占星術史的にはルネサンス期とします。ルネサンスが中世なのかモダンなのかは歴史的には決着がついていません。しかしながら占星術史の圧倒的第一人者であったホールデン説を採用するなら、15世紀後半から17世紀までアーリーモダンの時代です。
 Lehman 女史の本を読むとつくづく気づかされることが一つあります。リリーで代表される時代すなわち17世紀の英国の占星術はもはや中世の占星術ではない、中世よりは19世紀以降のモダンに近いということです。リリーが意図したわけではないのですけれど、結果的にはリリーはモダン占星術の祖となりました。要するにモダンを作るときパクったわけです。
 中世イスラム世界の占星術の集大成的学者であるal-Biruni による天体の意味とリリーによる天体の意味は、ほとんど一致しません。占星術の黄金時代であった9世紀からすでに800年、ケプラー以後モダン化は急激に進み、リリーの出現でモダンの誕生は予定となったと言えます。

 

  英語本です。有識者を目指すなら必読かもしれません。

The Book of Rulerships: Keywords from Classical Astrology

The Book of Rulerships: Keywords from Classical Astrology

  • 作者:Lehman, J. Lee
  • 発売日: 2000/01/01
  • メディア: ペーパーバック
 

 

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