ハイレジカルプレイス

 英語では places 、当然複数形です。モダン占星術の事典ないし辞典には、ハイレジカルプレイス(hylegical places)なる珍妙な用語が載っていることがままあります。

 

 非心理的モダン占星術では業界トップ的な書籍である A to Z horoscope maker and delineator には、ハイレジカルプレイスが図示されていました。当プログの筆者がその図をはじめて見た時の感想、なんじゃこりゃ!?、です。

 当時、伝統的占星術は事実上封印された状態、そんな占星術があることは業界人すら知らなかった時代です。書いている本人も本当は何を書いているのかわかっていないのがハイレジカルプレイスです。

 

 hylegical places のネタ元は、例によって、ウイルソンの辞典です。リリーもハイレジカルプレイスについて述べていたはずですが、リリーの記述は混乱しているので取り上げるのは不適切です。

 

 さてモダンの元祖の一人ウイルソンは、次の5つのハウスがハイレジカルプレイスだとしています。10、1、11、7&9。しかしながらウイルソンは、この項の説目ではリリーサーやライツについて何も述べていないので、何のためにハイレジカルプレイスなるコンセプトを使うのか、意味不明な記述になっています。

 

 業界トップの事典でありウイルソンの辞典の改良版のはずであるデ・ヴォアの事典では、principal places を見よ、となっていて、ルミナリーズ(太陽&月)が最も吉なる(ベネフィカルな)影響をチャートに与える場所、すなわち第1ハウス、第11ハウス、第10ハウス、第9ハウスそして第7ハウス、とあります。

 昨今のモダン占星術では、ハイレグをこのような広範囲に考えることは不適当だとされているようです。確かにそうなのですが、それで問題が終わったわけではありません。火のないところに煙は立たちません。モダン占星術にまで伝わっているハイレジカルプレイスの5つのハウスのの本当のネタ元は何なのでしょうか?

 

 これはもう半永久的にわかりません。モダン占星術の創作者たちは、引用元の原典名をあげないことがほとんどなので。しかしある程度想像がつきます。

 

 欧州の占星術の直接的ネタ元はほぼ全て中世イスラム占星術です。中世イスラム占星術のネタ元は、サーサーン朝と古典古代のギリシア(地理的にはローマ帝国)です。古代末期に欧州では占星術は絶滅しているので、古典古代→中世ラテン欧州なる影響は無視できます。ゆえに中世イスラム占星術ではハイレジカルプレイスをどう記述しているかみていきたいと思います。

 

 中世イスラム占星術では、ライツがリリーサーとなりやすいハウス位置を指定しています。このコンセプトに特段の名前はついていません。リリーサー決定のための第一歩的なステップにおいて、ハイレジカルプレイスを検討します。この用語は中世イスラムのものではありませんけれど、便利なのでハイレジカルプレイスを使います。

 

 ハイレジカルプレイスとは何か。

 ウマー(ル)・アルタバリの意見では、昼チャートでは太陽がリリーサーの筆頭候補であり、もし太陽がハイレジカルプレイスにあるなら、他の条件がどうであれ、太陽がリリーサーで決まり、これが本来の趣旨です。夜チャートで、月がリリーサーの筆頭候補の場合、ハイレジカルプレイスは別の場所になります。ただし、ウマー・アルタバリは、太陽のハイレジカルプレイスとして、アセンダント、11ハウス&ミッドヘブンの3つを挙げています。ハウス方式がホールサインなのかどうかは全く言及していません。恐らくはアングルとの関係、つまりクワドラント方式のハウス分割で考えるべきなのでしょう。

 モダン占星術セクトを捨ててしまいました。言語道断!?。太陽がリリーサーとなりやすい場所の情報だけは奇妙なかたちで20世紀モダンにまで伝わって残ったようです。もっともリリーサーがただちにベネフィカルかどうかは疑問ですが。

 ジェームズ・ディーンセクトライトの太陽みずがめは第11ハウスなのでリリーサーのはずです。彼は確かにスターとなりました。しかし、この太陽は、薄情な?彼の父親を象徴している可能性があります。n太陽(父)□n月(母)、n太陽 オポ n火星(ディーン本人)なので、事実をよく象徴しているように見えます。n太陽は、n月とは度数のアスペクトを取ります。しかしn月以外の天体とは度数のアスペクトを取りません。n太陽=父は、このチャートの持ち主とは無縁の人です。n火星は逆行していますから、父と子は反対方向に動いています。アル・カビシによると、オポは敵対的アスペクトです。

 

 話しを戻します。要するに、リリーサーとなる天体を決めるには、ハイレジカルプレイスの検討は必須ですけれど、ハイレジカルプレイスが吉かどうかは、にわかには判断できません。

 ちなみにアブ・アリは、ハイレジカルプレイスとして特定のハウスを挙げていません。昼チャートの太陽がアングルまたはサクシーデントなら、太陽はリリーサーの有力候補だとのことです。これも一つの見識です。特定のハウスならどうこういうのはやや疑問です。しかしウマーが記述しているように、1、10&11は、別格的に有力なハウスです。

 それにしてもウマーは3つのハウスしか挙げていないのに、どうして5つになった?

 これは恐らくサールの影響でしょう。欧州の占星術に最大級の影響を与えた中世イスラム占星術師はサールです。

 サールは、昼チャートの太陽がリリーサーとなるかどうか決めるには、まずハイレジカルプレイスを検討せよとしています。ハイレジカルプレイスとしてサールが挙げているのは次の5つのハウスです。

 アセンダント、ミドヘヴン、希望のハウス、西の stake のハウス、第8ハウス。

 

 現代風に書くなら、1、10、11、7&8のハウスです。ステークというのはアングルのことです。

 

 ハウスの数は5つになりました。しかし第9ハウスではなく第8ハウスを挙げています。斬新というか最先端というか。モダンのテクニックは古色蒼然感が強い。20世紀モダンは古典化しつつあるというか、当店的にはもう古典化してしまった、という認識です。21世紀モダンで活発なのはいわゆる心理占星術つまり海王星占星術の分野です。

 ハイレジカルプレイスとして、アブ・アリはアングルとサクシーデントとしているように、中世イスラム占星術ではいわゆるケイデントを嫌う傾向があるようです。念のために言いますと、ハイレジカルプレイスとしては、です。ハウスの意味そのものは、ホールサインハウスで第9ハウスは、通常の第9ハウスの意味を持ちます。基本的に“良い”ハウスです。しかし、アングルとの関係では、第9は弱いハウスです。

 

 重要ながら日本国内では誰も指摘していない重要な教訓。

 吉凶と強弱は、無関連ではないかもしれませんけれど、別物です。

 ただし海外でもこの誤解はあります。一流の占星術師でもついついやってしまいます。

 

 なにをもってハイレジカルプレイスとするかは、伝統派でもモダン派でも諸説紛々です。しかしながらセクトライトがリリーサーとなり得るかどうか検討するには、その天体の強弱の検討は欠かせません。その検討の最初のステップで使うべきコンセプトがハイレジカルプレイスです。

 

end